「腕がいいのは無論のこと、卓越した「聴く力」が職人リックの最大の武器」カーマイン・ストリート・ギター AuVisさんの映画レビュー(感想・評価)
腕がいいのは無論のこと、卓越した「聴く力」が職人リックの最大の武器
楽器好きにはたまらない企画。事前に「NYの古い建物の廃材でエレキギターを作る職人」と知り、音質よりも希少性が価値なんだろうなと先入観を抱いたが、間違いだった。老舗ギターショップの主が木材に固有の響きを聴き取り、成形し、その魅力を最大限に生かすべくピックアップなど音を増幅させるパーツを加え、磨き塗装して完成させる。出てくる音が、あたたかくぬくもりがあって実にいい。豊かな倍音が心地よく、生で聴けたら一層素晴らしいだろう。
リックが店を長年続けられている秘密はもう一つ、顧客たちの記憶や思いをさりげなく引き出す「傾聴力」にある。店を訪れギターを鳴らす客たちは、音色に感激して子供のような表情を浮かべ、自らのキャリアにまつわるエピソードを店主に語り出す。顧客にとってはリックと語る時間も付加価値なのだろう。客たちが逸品のギターを演奏する音と、彼らが語る思い出の両方が、まさに滋味あふれるエンタメなのだ。
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