「鮑とパパイヤ」三人の夫 おおつさんの映画レビュー(感想・評価)
鮑とパパイヤ
『ハリウッド・ホンコン』以来、十数年ぶりにフルーツ・チャン監督の映画を観ました。
自閉症?らしき女性に身内が売春をさせているという設定に『岬の兄妹』を思い出しました。ただ、『岬の兄妹』のように貧困を浮き彫りにするような深刻さはありません。作中で語られる人魚伝説と主人公ムイが重ね合わされるように、どこか寓話的です。『ハリウッド・ホンコン』の主人公の女性も現実に存在していたか分からないような描かれ方で寓話的だったし、そういう意味で『ドリアン・ドリアン』『ハリウッド・ホンコン』と一連の作品といえると思います。
しかし、これまでのフルーツ・チャン作品と違うのは、性描写が多用されるところです。そしてこの性描写が今作の一番の見どころだと思います。主人公ムイを演じるクロエ・マーヤンの肉厚な身体がインパクト大です。その他にも、鮑がうねっているシーン(しかも冒頭)やパパイヤをいじくっているシーンなどエロく映像として衝撃的です。
ただ、この映画はエロいだけではなく、これまでの作品と同様、香港について監督の思いが表現されています。人魚伝説を求めて島に行くあたりから、 映像がセピアっぽくなり、最終的に白黒になり、そして最後はムイが羽織る布だけが赤くうつります。赤は香港を象徴する色だし、『ハリウッド・ホンコン』で主人公を香港の象徴として描いていたのと同じように、今作でも主人公ムイは香港の象徴として描かれているように思います。
監督にとって現在の香港は娼婦のように他国から扱われているという思いがあるのでしょうか。
久しぶりにフルーツ・チャン監督の新作を観ましたが、これまでどおりの監督らしさもありつつ、映像的に新しさも加わって良い作品でした。