「傑作な原作の良質な映画化」十二人の死にたい子どもたち アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作な原作の良質な映画化
原作は,冲方丁(うぶかた とう)による 2015〜2016 年の連載小説である。伏線張りまくりで回収しまくりという原作が非常に面白かったので,映画化を楽しみに見た。尺の制限で止むを得ずカットされたエピソードが少しあったものの,ほぼ期待を裏切らない出来だと思った。原作を読めばホラーなどでは全然ないということがわかるはずなのだが,TV CM や,映画の導入部などでは,あえてホラーテイストの演出がなされており,誤解や失望を招いているようなのが非常に残念である。
人が自死を選んでも止むを得ない場合というのはどういう場合であろうか。若者が自殺する理由としてニュースなどで話題になるのは,学校でのいじめ,親による育児放棄や虐待,不治の病,身体や精神の障害,などなどがあるが,その中には克服や対処が可能なものも少なくないわけで,本作は容易に集団自殺を図る傾向に向けた警告というメッセージが込められているのだろう。「リング」の貞子が味わった苦痛でも,自殺するには不十分であると思うし,ましてや他人を呪い殺していい理由などには全然なっていないのである。
あの長い原作を2時間に収めることができるのかと非常に疑問だったが,綺麗にまとめ上げていた脚本は非常に見事であった。惜しいと思ったのは,各登場人物の事情や背景の描写が少しずつ薄くなってしまったために,場合によっては意味不明の行動になってしまったものがあったことである。例えば,階段であのようなことを行なった者の動機は不明になってしまっていた。また,原作が力を入れていた「不妊報奨制度」というキーワードが抜けてしまったのは非常に残念であった。
役者はそれなりに活躍中の若手を集めたようだが,名前まで出て来るのは杉咲花と新田真剣佑くらいで,他は TV ドラマのちょい役で出てきたような人ばかりだったのだが,むしろそれで良かったという気がする。横溝正史の作品の映像化などでは,大物俳優や大物女優が犯人役をやってしまうので,おおよその予想がついてしまうという難点があるのだが,本作についてはそれが避けられたからである。ただ,大声を張り上げればいい演技と勘違いしているような人がちょっと目障りであった。また,杉咲花のあの出で立ちは,もう少し身長のある人の方が良いのではないかと思った。
音楽はあまり耳に残らなかったが,前半のホラーテイストの演出では,低音の持続とクレッシェンドという常套手段がかなり効果を発揮していたようだった。演出の確かさは,流石に堤幸彦監督だと思ったが,生まれてこなかった方が良かったという子供は本当にあり得るのかどうか,あるいはそれが止むを得ないと思えるほどの境遇とはどういうものか,といった重いテーマはするっとまるっとゴリっとかわしてしまっていたのが惜しまれた。
(映像5+脚本4+役者3+音楽3+演出5)×4= 80 点。