「現代のスクリューボール・コメディ」おとなの恋は、まわり道 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
現代のスクリューボール・コメディ
この映画は、現代のスクリューボール・コメディだと思う。
「スクリューボール・コメディ」は「ロマンティック・コメディ」と同義に語られることも多いのだけれど、個人的な印象としては少し違う。「スクリューボール・コメディ」と呼ぶときは、ケイリー・グラントやキャサリン・ヘップバーンなどが活躍し流行させた1930年代から1940年代の作品を連想するし、「スクリューボール」と言う言葉自体が「奇人変人」を意味する通り、一筋縄ではいかない男女が出会い、はちゃめちゃな展開を転がり落ちるようにして恋におちていく様子を小粋に見せてくれるジャンルだと思う。そういう意味で、この映画はまさしく「奇人変人」の男女が繰り広げる「スクリューボール・コメディ」だと思う。不躾で粗野な男と神経質な女、だなんてまさしくスクリューボール・コメディの定型だ。
一番笑ったのはあのセックスシーン。今まで観たセックスシーンで一番滑稽で可笑しくて馬鹿げててそしてちょっとリアル。全然ロマンティックじゃないところがもう最高。キアヌ・リーブスとウィノナ・ライダーがこれを演じてるんだから、笑っていいんだかいけないんだか迷いつつも、やっぱり思わず笑ってしまった。
そして繰り広げられる台詞の応酬。詭弁と屁理屈ばかりでまったく気の利いた台詞ではないけれど、矢継ぎ早に放たれる会話のやりとりもまた奇妙奇天烈で可笑しい。特にリーブス演じる偏屈男フランクが放つ減らず口なんて、全然筋が通ってないのに言いくるめられてしまうパワーがあるし、それに対抗するウィノナ演じるリンジーも決してやり込められるだけでなくしっかりやり返すだけの達者な口を持っているからこそ成り立つ二人の関係性。これを「イライラする」で片付けられても大いに納得なんだけど、スクリューボール・コメディを愛する私はこういう男女のやり合いこそが醍醐味だとさえ思っている節がある。
ただそんな私が見ても、台詞にスマートさが足りないためとにかくお互いが言いたいことを言い合って屁理屈をこねくりまわしているだけで終わっているなと感じるシーンも少なくなかった。もしここに「洗練」が加われば、それらを小粋な会話劇として成り立たせることもできたりするけれど、さすがにそこまではいかなかったようだ。
最近はハリウッドのメジャーシーンではなかなか見かけなくなってしまったキアヌ・リーブスと、十数年前の不祥事からじわじわと復活しヒットドラマのレギュラーからついに主演映画にまでこぎつけたウィノナ・ライダーという濃ゆいメンツは、到底ロマンティック・コメディが似合いそうにもないはずだけれど、なぜだかこの作品に関しては、この二人が主演である意味正解だったかも?と思わせる部分もある。妙にリアルな悲愴感や捨て身さが却って作品にはマッチしていたような(人によってはそれを痛々しさと見るかもしれないけれども)。
良く出来た映画ではないけれど、古き良きスクリューボール・コメディを現代のリアルな価値観に換骨奪胎したような作風は個人的には悪くなかったなと思う。