劇場公開日 2019年5月31日

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「くりまらず、ゆーっと」長いお別れ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0くりまらず、ゆーっと

2019年12月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

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インディーズ作『チチを撮りに』、商業デビュー作『湯を沸かすほどの熱い愛』が個人的に連続ヒット。
初めて小説の映画化に挑んだ中野量太監督の新作は、これまた良作!

タイトルの“長いお別れ”とは、少しずつ記憶を失っていく認知症の事。
認知症を患った父と、支える家族の7年間。
『湯を沸かすほどの熱い愛』もそうだが、難病を題材にし、各々が抱える問題は深刻。
認知症の父。家族の事も忘れ、症状はどんどん悪くなっていく。
老々介護の妻。自身も眼の病気を患う。
アメリカで暮らす長女。夫婦関係や育児に悩む。
料理が得意な次女。恋も人生も上手く行かず…。
重く暗くなりがちな話を、クスッと笑えるユーモアを交え、ベタなお涙頂戴にはならず、ハートフルな作品に仕上げた中野監督の手腕はもはや安定モノ。
常に家族を描き、家族映画の新たな旗手。

中野監督が描く家族の姿は、普遍的。ありふれた展開や設定も多い。
認知症で記憶を失いながらも父の心の奥底に残る家族への愛、優しく愛情深い母、長女も次女も家族と接する中で人生を見詰め直していく…。
こういうのは何度描かれた事か。
それでも共感たっぷりに描かれるのは、我々自身やその家族と何処か重ね通じる点を、“普遍的”に巧みに描かれているからだろう。
本当に劇的な事件や特別な事は起きない。ありふれた家族の物語。
広く大きな視野では平凡だけど、我々一人一人、家族一つ一つで見れば、かけがえのない特別で大事な家族の物語なのである。

キャスト陣のアンサンブルがもう絶品!
等身大の主人公の次女・蒼井優が抑えたさすがの巧さ。
長女・竹内結子も普段の明るさの影に複雑な悩みを、こちらも巧演。
さらりと共演している二人だが、よくよく考えてみれば、人気も実力もある2大女優の豪華初共演である。
両親役の両ベテランがとにかく魅力的!
認知症の夫を支える老々介護の妻という描き方によっては見てるだけで鬱気分になる役を、松原智恵子が明るく、コミカルに、チャーミングに。優しく愛情深く、何て素敵な母/奥さん…。
そして、山﨑努。元校長先生で威厳たっぷりだが、認知症を患ってからは子供のようで、惚けた雰囲気が何だか可愛らしい。症状が徐々に進行し衰えていく様と家族の中心に居る愛すべき存在を、さすがの名演で魅せる。

サブキャラでは、長女の息子。
母に反抗的で家族の事よりガールフレンドの事ばかり考えているが、祖父は嫌いじゃない。
メインエピソードではなくサブのサブのエピソードだが、この祖父と孫の関係、片手を上げる挨拶。中盤のあるシーンやラストシーンでニヤリとさせられる。

父がよく口にする、「帰る」。
開幕のメリーゴーランドや父が得意な漢字や趣味の読書、次女が作る料理、祝い事があると必ず被るパーティー帽子…。
これらの要素は巧みな伏線とまでは行かなくとも、所々作品を活かしてくれる。
物語は2007年からの7年間。その間、国内で起きた事件や出来事が背景として。我々と同じ目線で同じ時を生きている事をより感じさせてくれる。

『湯を沸かすほどの熱い愛』のラストで衝撃の展開が賛否となったが、本作もちょっと気になる描写が。
認知症の父は万引きをしてしまう。認知症患者はよく万引きをする…という誤解を与えそうな描かれ方。
寝たきりの父の身体を雑に動かしたり、震災後過剰に帽子やマスクを着けての外出…。(福島県民故、どうしてもちょっと気になってしまった)
それから、認知症介護の大変さや苛酷さがそれほど描かれず、理想的でもある。

本作が認知症介護問題を真っ正面から描く作品であったら、指摘されて然るべきだろう。
だけど本作はあくまで、家族愛の物語。
クスッと笑って、温かく感動して。
家族って、いいなぁ…と、平凡だがしみじみと思わせる。

そう、
くりまらず、ゆーっと。

近大