「もっと脚本を作り込んで欲しかった」男はつらいよ お帰り 寅さん longingさんの映画レビュー(感想・評価)
もっと脚本を作り込んで欲しかった
満男くんより若干上の世代です。
今まで寅さんはTVでさえ見たことがなかったが、コロナ禍で家にいる間に49作品、通しで見てはまってしまった。先月は宣言開けすぐに帝釈天に詣で、寅さんミュージアムも行ったほど。
そのため期待して、ストリーミング開始後すぐに視聴。
しかし、満足とは言えず。
せっかく20有余年を経てとらやの面々に会えるわけだから、博とさくら夫妻の幾星霜がほんわかと伝わってくるシーンが欲しかった。冒頭からボケたの何ので喧嘩。さくらはしかめっ面。おいちゃんたちの思い出話も欲しかったし。
バイトだった好青年は今やカフェとらやを切り盛りしているようだけど、女房子もいてまさかバイトではなかろうし、どういう立場なんだろうとか、奥さんはあのバイトの女の子かなとか、源ちゃんもお達者なのだから、先代御前様の思い出や懐かしむ一言くらいあったらよかったし、総じてレギュラーメンバーのその後が知りたかったこちらははぐらかされた気分。
そちらに時間が取れないわけはなかったと思う。
志らく師匠とか、サイン会の551おばさんとか、出版社のセクハラ問答とか、理想的すぎる娘との会話とか面白味に欠ける部分の尺をそちらに回せば良かったのに。
そもそも寅さんはいつこの一家から消えたんだろう?
今や「お兄ちゃんが帰ってくる」ことは全く想定してない一家。
そして、泉ちゃん以外の面々も失礼ながら芝居が下手になってしまった。
さくらさんも腕の動きが邪魔だし。
満男くんには全く精彩がない。
博さんに至ってはいてもいなくても程度。
リリーさんは相変わらずうまかった。老いてなお、いいオンナだった。
全編通して、繰り返し何度も見たのは、橋爪功扮する泉パパと満男のやりとり。
ひったくるようにして得た2万円を、めちゃくちゃにたたんでがま口にしまうところなど秀逸。
老い衰えて力を入れないと口がしまらない、ふん、と力を込めて締めた後、ふと左右を見回す泉パパの表情が、なんともリアルで哀れで滑稽で、愛おしかった。
不倫の果てに再婚した妻と、ささやかながら幸せそうだったこの男(役者は違うけど)に、その後何があったのだろう。。。と、この人の人生を見たいと思った。
山田洋次らしさを感じたのは、ここだけでした。
このシーンだけ星5つです。