「人間にリアリティがない、49作までがお勧め。」男はつらいよ お帰り 寅さん picturereさんの映画レビュー(感想・評価)
人間にリアリティがない、49作までがお勧め。
新作部分が良くないので、旧作部分のカメラワークや、演技、そして何より渥美清の素晴らしさが際立っていた。
泉ちゃんにちゃんと家庭がある設定だったが、泉ちゃんが不安定で、家族という心の支えを得た壮年の女性には見えなかった。だからこそ、満男との久しぶりの再会が彼女にとってどんなものなのか、描けていなかった。海外であれほどの仕事に就く力強さがあれば、母との関係も自分の力で改善しているはず。
寺尾聡演じていた泉の父も、49作までは憎めない人間として描かれていたはずなのに、人生の気配のない謎の老人になっていた。
満男も自分のサイン会であからさまにファンに態度が悪いなど、社会人になって成長した気配がなく、死別した妻への想いも感じられない。確かに少々乱暴なところが満男らしさかもしれないが、青年期のふてくされぶりがそのままで、人の心の痛みのわかる優しさのある満男の成長を楽しみにしていた私には残念だった。
セリフ一つ一つとっても、大したことないことでさくらが妙に感情的に怒り出したり、中学生の娘がずっと父親の家政婦みたいなことをしていたりして、とにかく不自然。
またおいちゃん、おばちゃん、タコなどを想う素ぶりがあまり無いのもファンとしては残念。
画面に出ている人がそこにいない人を想うという男はつらいよの醍醐味がなかった。
たぶんこんな風にはならないのでは?という30年後のストーリーと思ってしまった。凄くファンの人にはお勧めできない。新しく見る人は第1作〜49を勧めたい。
50作目で初めてのエンドロールと、渥美清の歌が流れ、本当に寅さんが去っていった気がして感慨深かった。
追記
劇場パンフレットが素晴らしく買いでした。全49作が書き下ろしのあらすじと出演者、リマスター後の映像で紹介されています。