劇場公開日 2019年12月27日

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「時代劇だと思えば腹も立たない」男はつらいよ お帰り 寅さん ごいんきょさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5時代劇だと思えば腹も立たない

2020年1月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なんとも見事な編集のうまさだ。寅さん愛に満ち満ちたコラージュであり、オマージュである。
そしてそうそうたる芸達者たちが新たな寅さん世界を再現する。久々の復帰となった後藤久美子が棒読みなのはご愛嬌というところか。
しかし、そうして描かれる寅さん世界はどうだろう。初期の寅さんでさえ、現実離れした設定であり、そこに登場する家族はすでにない形の家族だった。それでも、私たちはそこに失われつつある理想の家族の姿を見、自分たちの世界に重ね合わせて泣いたり笑ったりしたものだった。その世界は自分たちにはもう取り戻せないけれども、帰りたい世界だった。でもどっぷりとその世界に浸ると、他人との愛情や関係の深さに疲れてしまうのは目に見えている。寅が思い出したように故郷に帰って来るように、年に二回ほどスクリーンの中でその世界に酔うのがちょうどよかった。
そして今作である。そこに登場する家族は昭和のままである。その世界はもうこの世には存在しない。帰りたい世界でもない。柴又駅の自動改札機のアップで分かるように、作者自身もICカードの世界から駅員が切符を切る世界にはもう戻れないのは気づいているはずだ。昭和の価値観に、とってつけたようにセクハラや難民問題など、薄っぺらく平成をコーティングしても、現代の価値観とは遠く離れた世界だ。唐突に「女の子には母親が必要だ」などという価値観を持ち出されても戸惑うばかりだ。
映画としては非常にうまくできている。時代劇だと思って見れば、楽しめるだろう。文楽や歌舞伎で主君のために我が子を殺す親を見て涙できるのと同じだ。
とか言いつつ、必ず映画館に足を運ぶのは映画ファンの性だ。スターウォーズも行ったし、おそらく次の007も見るだろう。また次の寅さんが帰ってきたら、見に行ってぶつぶつ文句を言うのである。

ごいんきょ