劇場公開日 2018年12月8日

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「人は寛容で毅然としていられない」暁に祈れ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人は寛容で毅然としていられない

2019年1月4日
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鑑賞方法:映画館

怖い

難しい

 刑務所というのは、有罪になった人々を収監し、服役させる場所のことである。法を犯したとされる連中だから、刑務所内のルールなどあってないようなものだ。中に入れば酷い目に遭うに違いない。とは言っても、酷いにしても限度があるだろうと思っていた。
 しかしこの映画に描かれるタイの刑務所は、想像していた限度を軽く超えている。所長も刑務官も含めて、全員が欲望に忠実で他人の被害など屁とも思わない。囚人の死は日常茶飯事である。大抵の若い新入りは男色の被害に遭う。
 本作品には善人は登場しない。仏教国であるはずのタイだが、刑務所には慈悲は存在しないようだ。男たちはゴミみたいなプライドにすがりつくしか生きるすべがなく、時に争い、時に他人を嘲笑う。いじめっこの精神性とほぼ同じである。つまり、タイの国民のレベルはまだ発展途上なのだ。日本でも戦後から1960年代くらいまでの精神性はそれはもう酷いもので、一般の企業が暴力団の運営するタコ部屋と同じようであった。
 タイに比べれば随分と非暴力的で温厚に、民主的になったように見える日本だが、蓋を開けると暴力支配がそこかしこに散見する。人間は上品になった分、勇気を失った。修羅場をくぐった人間とそうでない人間とでは胆の座り具合が違う。人に対して寛容でいることと、強くて不善なものに対する毅然とした姿勢を両立させることは、いまでも非常に難しい。気が弱いことが必ずしも勇気がないことに一致するわけではないと主張できればいいのだが。

耶馬英彦