「地獄の中の希望」暁に祈れ ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
地獄の中の希望
とんでもないものを見せてくれる作品だ。タイの刑務所は地獄のようだと本で読んだことはあったが、ここまですごいとは。
ジャン=ステファーヌ・ソベール監督のリアリティへのこだわりによって、撮影場所は元刑務所の建物で、囚人役も元囚人たち。なかには殺人を犯したものを混じっているらしい。刑務所内で暴行も殺人もクスリも当たり前、周囲のどこを見渡しても希望のない世界で、主人公のビリーは殴り合いの世界「ムエタイ」に光を見出す。ムエタイは神聖な競技だ。ワイクルーとという、神に祈りを捧げる踊りを試合前に行う。一方で賭博の対象になっていたりもするし、貧困から抜け出すことを夢見る少年たちが身を投じる世界でもある。
暴力が支配する地獄の刑務所で見つけた希望が、格闘技という殴り合いだったことは、主人公はどこまでいっても暴力から逃れることができないことを示唆していかもしれない。それでも生きる意思の強さが胸を打つ。
コメントする