劇場公開日 2018年12月8日

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「人は環境よりも孤独のほうがキツい」暁に祈れ しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人は環境よりも孤独のほうがキツい

2018年12月19日
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実は、ある途上国に住んでいたことがある。
転勤で住んだので、渡航前に会社で研修があり、そこで言われたこと。海外で法に触れるようなことは絶対にしてはいけない。日本じゃないからとハメを外す人がいるが、とんでもない。海外とは、つまりアウェーだ。孤立無援、味方はいないと思え。そして、刑務所に入るようなことになると最悪だ。途上国の刑務所は、普通の日本人だったら、たぶん3日と持たない場所だ。
この映画を観て思ったのは、ああ、研修で聴いた通りなんだなあ、ということだ。

タイで、イギリス人のボクサーが麻薬で捕まり、刑務所に収監される。
そこはリンチ、レイプ、ギャンブル、看守へのワイロなど何でもありのカオスで。文字通り全身タトゥー(頭までタトゥー)があって、顔が怖い男たちがうごめいているところだった。
ただし、予告編などを事前に観ていて、怖い怖いと思って観たら、覚悟してたほどではなかった。

主人公はタイ語が出来ない。刑務所には英語が出来る者などいない。言葉が通じないのだから、セリフは少なくなる。自然、表情、目つき、仕草による表現が多くなり、意外と演出は繊細。
主人公が刑務所の中でムエタイを始めたとき、それまでになかったような、いい表情を見せたのが印象的だ。

刑務所モノでは、次第に主人公に友人ができたり、服役囚同士の連帯が生まれたりするのだが、言葉が出来ないので、そういうストーリーとは無縁。
主人公は言葉が通じない断絶に置かれる。ただでさえ狂気のような場所に孤独でいることは苦しいだろう。そして、主人公は刑務所のムエタイ部?に出会う。言葉は通じなくても、コーチの指導や仲間との練習試合でコミュニケーションが生まれる。
本作は、環境のひどさ以上に孤独が人をむしばむことと、人は人とのコミュニケーションに救われるのだ、ということを教えてくれる。

終始、クローズアップ気味の手持ちカメラによる手ブレ映像が用いられる。リアリティは生むのだが、試合のシーンについてはどうか。ある程度、カメラを固定してくれないと試合の状況がわかりにくいと感じた。
ラスト、いろんな意味で全てを賭けたムエタイの試合があるのだが、カタルシスがいまひとつ。もっと盛り上げてもいいんじゃないの?観客が観たい絵を見せて欲しかった。

しろくま