劇場公開日 2018年12月8日

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「脳天殴られる感覚」暁に祈れ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0脳天殴られる感覚

2018年12月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

無骨でスタイリッシュ、削ぎ落としは多くも盛り沢山な映画だった。

麻薬中毒のビリーのバックグラウンドは物足りなさも感じるほど最低限で、彼がどんな人物か把握しきれないうちにすぐ逮捕される。
急に収監されたビリー本人と同じような戸惑いと唐突さを観てる側にも感じさせるような投げかけ方。

実際の刑務所を舞台に実際の受刑者を出演させているとのことで、とにかく生々しさが半端じゃない。
家畜の豚でももっと良い生活してるんじゃないかってくらいの劣悪な環境に、スクリーンから強烈な臭いが漂ってくるようだった。
刺青と地肌の割合が1:1くらいの男たちの身体を舐め回すようなカメラワークが印象的。
テラテラと黒光りする刺青の迫力よ…。
タイ語にほとんど字幕がついてないのでそこに放り込まれた絶望的な感情が身に刺さる。

ボクシングの描写の細かさとそのリアルさに圧倒された。
至近距離で映し出される殴り合いに、だんだん自分の身体も傷んでくるような気がしてもう勘弁してよと思いながら観ていた。
ビーヒョロヒョロポンポコポコンコと軽く陽気に聴こえるタイの民族音楽と試合の泥血感のギャップが凄い。
序盤からずっと心配していたことにはならなかったことにひどく安心した。自伝小説が出ているんだから当たり前か。

意思が弱いのか誘惑に弱いのか、刑務所に入ってもなお堕落的でいたビリーの目覚めと救いのシーンが好き。
怒り以外の感情らしい感情がなかなか表情に見られなかった彼の涙が胸に刺さってくる。
レディボーイとのささやかなロマンスには安心感を覚えた。
最初の房内で世話を焼いてくれたおチビの受刑者が好き。

作品内でビリーはとにかく「ヤケになっては反省」というのを繰り返している。
境遇やレベルは全く違えど、案外どんな人にも身に覚えのあるような心の動きに共感できた。
分かりやすい大袈裟なドラマや熱く感情移入することはないけれど面白かった。ラストは驚き。

追い詰め方が激しく脳天を殴られている感覚になる。鑑賞後少し吐きそうになった。

KinA