劇場公開日 2019年5月25日

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「ザ・文学座」兄消える とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ザ・文学座

2019年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

さわやかな映画だった。
映画のHPには柳澤氏と高橋氏の”バディ”映画と書いてあったけれど、私には、まじめ一徹に生きてきた弟の許に現れた天使に見えた。尤も、つかみどころのない天使ではあるが。

西川監督が演出された舞台を見たことがある。
台詞と言い、台詞回しと言い、その舞台を彷彿とさせる。唐突にアダム・スミス等の”学問”が挟まれるのも、文学座の特徴なのか?
そんな文学座の演劇が劇場から外に出てきた感じ。
まだ見たことがないが『父帰る』という芝居がある。そのもじりか?

伝説の喜劇俳優・柳澤氏。
”コメディ””お笑い”としてみると、さすがに今風のテンポではなく、肩透かしを食うかもしれない。
尤も、それは柳澤氏の演技のせいというより、”文学座”らしさのせいだと思う。または、あえて狙ったであろう昭和の香りというか、今の”バラエティ”と”喜劇”の差なのか。
多少台詞回しや動きがもたつく感じはあるが、出演されていた時の柳澤氏のコンディションを考えれば、映画の中の柳澤氏の存在自体が奇跡。
そんなふうに(失礼ながら)お年を感じさせはするが、それでもその表情一つ一つー他の方が台詞を言っている時の表情、寝ている時の演技等ーに目が釘付けになる。永久的にフィルムに残しておく価値があると思う。感嘆。
そして、着こなしのダンディさも必見。ただ、コーディネートを真似してみても、あの雰囲気は出ないであろう。
まだ、柳澤氏の映画は『マジックアワー』しか見ていないが、昔の映画が見たくなった。

そんな芝居を受ける高橋氏。
まじめ一徹に生きてきた朴訥な役柄で、人の好さ・人生を振り返ってしまうやりきれなさ、それでも守ってきたものがあることへの自信等様々な弟の歴史を、台詞以外のところで全身ににじませて見せてくれる。
そして、兄と弟と異質ながらも、同じ源をもった”兄弟”のかけあいを見せてくれる。おもしろみのない弟が、兄との会話で、”弟”のおもしろさが出てくるのが凄い。
なんて縦横無尽な役者なのだろう。こちらも感嘆。

子どもを巡る顛末等、脚本には多少のつっこみを入れたいし、”文学座”らしい過剰な演技もあり、そこを楽しめるかで、映画の評価は変わってくると思う。

けれど、個人的には、上質な演技を堪能できる安定した映画だと思う。

とみいじょん