峠 最後のサムライのレビュー・感想・評価
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【”滅び行く定め・・"大所高所の思想で、幕末の動乱期に、戦なき日本の未来を考えていた裂帛の気合と優しき心を併せ持っていた侍、河井継之助の”独立自尊”の生き様を、役所広司が見事に演じた作品。】
ー 敢えて記すが、原作は学生時代に既読である。というか、愛読書であった。
原作は文庫2巻のボリュームがあり、読み応え抜群である。
今作は、それを2時間の尺に収めているので、鑑賞側には最低限の知識を求められる。
が、原作を読んでいなくても、今作で描かれる河井継之助の姿は、充分に心に響くと思う。-
◆感想
・前半、大政奉還直後ではあるが、長岡藩が未だ西軍の攻撃を受けていなかった頃の、河井の妻(松たか子)に対する愛情溢れる数々のシーン。
ー 手を繋いで歩いたり、髭を剃って貰う時の心地良さげな表情であったり、夫婦で芸者遊びをしたり・・。河井が優しき男であり、且つ旧弊に囚われない自由な思想を持っている事が分かる。
妻に、当時貴重であったオルゴールを贈ったり、ガトリング銃を購入するのも、彼が諸外国に興味を持っていた事を示唆している。-
・圧倒的な兵力を誇る西軍が長岡藩にやってきた際に、河井が率いる長岡藩士たちは必死に食い止めるも、城を落とされるシーン。
ー この作品は”滅び行く定めに抗いつつ、時代の流れを諦観する男の哀しき姿”を描いている。
賊軍とされた東軍は、敗走を重ねて最後は五稜郭で制圧される。
この辺りは土方歳三の生涯を描いた「燃えよ剣」や今作と同じ司馬遼太郎の原作を読んでいるとより良いと思う。
又、河井が、民を想い、西軍を率いる居丈高な薩長及び土佐の岩村(吉岡秀隆)に、必死に戦を避けるように、長時間談判する姿も印象的である。ー
・城を攻め落とされ、一時は北に逃げるも”八丁沼”を夜半に密かに通り抜け、城を奪還するシーン。
ー 河井が知略ある、皆に慕われる存在である事を示し、且つ長岡藩士たちが、西軍に一矢報いた今作の戦の中では、唯一してやったりと思ったシーンである。ー
<だが、圧倒的な兵力差の中、河井自身も左足に重傷を負い(けれど、”軽傷だと伝えろ。”と配下の者に彼は言う。)長岡藩士達は北へ、敗走していく。
自らの死期を悟った河井が、お付きの松蔵(永山絢斗)に命じ、大量の枯れ木を燃やさせ、”自分が死んだら、即、火にくべろ!”と言うシーンの、役所広司の物凄い眼力。
徐々に彼の表情が炎に呑まれて行くショットの凄さ。
河井が、弱小だった長岡藩の家老でなければ、その後の日本はどうなって行ったのだろうか・・、と思いつつ映画館を後にした作品である。>
原作は司馬遼太郎の小説『峠』(未読)、監督・脚本は小泉堯史。 20...
原作は司馬遼太郎の小説『峠』(未読)、監督・脚本は小泉堯史。
2019年に完成していたけれども、コロナ禍で幾度かの公開延期。ようやくの公開となります。
幕末の動乱期の越後長岡。
家老・河井継之助(役所広司)は幕府側、朝廷側のどちらにも属することなく、中立の立場を目指していた。
どうであれ、戦は回避、民の平安を守り抜くことがあるべき姿であるとの信念であった。
しかし、朝廷を担ぎ出した薩長軍との交渉は決裂に終わり、戦は回避できなくなってしまう・・・
という物語。
登場人物は多々いるが、あらすじを書くと、これだけである。
映画の焦点は主人公・河井継之助にあてられ、妻・おすが(松たか子)のモノローグで映画がすすんで行きます。
幕末を舞台にした映画というと、勝者・敗者の別にかかわらず、英雄的な人物の豪快な活躍が描かれることが多いが、この映画では、そこいらあたりはあまりない。
妻のモノローグで語られる物語の前半は、継之助・すがの夫婦の物語。
お座敷での夫婦揃ってのカンカン踊りや、自宅座敷で並んで聴くオルゴオルの音色など、寄り添い同じ方向をみる夫婦の像が印象深い。
振り返ってみれば、監督・脚本の小泉堯史の映画は『雨あがる』『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』と、いずれも夫婦の映画であった。
本作も、その延長線上にある。
後半は、意に反して戦となった長岡の物語。
多勢に無勢といってもよいぐらいの戦力差がある戦であり、負け戦は決定的である。
唯一、米国仕込みのガトリング砲を使って反撃する描写ぐらいしか、長岡側の勇猛果敢な描写はない。
映画的に、この後半が、観ていてしんどい。
戦相手の薩長側の兵をほとんど写さないのは演出上の工夫かもしれないが、煙幕越しの戦闘だったり、と同じような絵面が続く負け戦なので、ほんとしんどく、もっと短くてもよかったのではないかしらん、とも思った次第。
(ま、戦のシーンを削ると、あまりに地味すぎる幕末映画になって、商売にならないかもしれないのだが)
ということで、個人的には前半は感心したけれども、後半はあまり気乗りがしませんでした。
タイトルも『峠 最後のサムライ』というよりも、『峠 継之助とその妻すが』の方が相応しいかな。
主人公の背景などあまり描かれていないのだけれど、役所広司の存在感だけで納得させるような演技でした。
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