「多くの命を預かる真のリーダーとしての役割を、再考させられた。」峠 最後のサムライ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
多くの命を預かる真のリーダーとしての役割を、再考させられた。
小泉堯史 脚本・監督による2022年製作(114分/G)の日本映画。
配給:松竹、アスミック・エース、劇場公開日:2022年6月17日。
司馬遼太郎の長編時代小説「峠」(未読)が原作。河井継之助(1827〜1968)のことは、名前ぐらいしか知らずじまいで、興味深く見ることは出来た。
映画で描かれていた前史になるが、河井継之助は、1865年郡奉行に就任したのを機に藩政改革(風紀粛正、農政改革、灌漑工事)を行って窮乏する藩財政の立て直しをはかるとともに、1868年兵制を改革してフランス軍に範を取った近代的軍隊を設立。映画でも登場したが、当時の最新兵器であった連射可能なガトリング砲2門(当時日本に3門しか存在せず)を所持していたらしい。
戊辰戦争が起こり藩論が佐幕か恭順かで二分すると、家老に就任した河井は藩主の信任のもと恭順派を抑える一方、佐幕派にも自重を求め、藩論の決定権を掌中に収めた。さらに、新政府軍からの献金・出兵要請を黙止し、会津藩などからの協力要請に対しても明言を避け、中立状態を維持。
映画は、継之助(役所広司)の藩主歎願書を持参しての新政府軍監だった土佐藩の岩村精一郎(吉岡秀隆)への講和談判(小千谷の慈眼寺、1986年6/21)、それが決裂しての新政府軍との「北越戊辰戦争」を中心に描かれていた。
とは言え、戦いはなんと言っても多勢に無勢で、分が悪い。唯一、敵の意表をつく八丁沖渡沼作戦を実施しての、長岡城奪還(7/24)が見せ場というところか。この地を知り尽くしている鬼頭熊次郎(櫻井勝)を先頭にしての河井主導の渡沼作戦。ただ、奇襲作戦の最中、河井は左膝に流れ弾を受け重傷を負ってしまい、それが命取りになってしまう。
原作も映画も、非戦中立を試みたが叶わず、サムライの義(徳川家への恩義、薩長の非正統的やり口への義憤、及び会津藩への共感?)を重視して、新政府と闘った河井をかなり評価している様に思われた。ただ自分は、勝ち目のない攻撃を米国に仕掛けた大日本帝国のリーダーの決断との類似性を感じてしまった。長岡藩の意思決定権者として、家臣・その家族及び住民に大きな犠牲を強いた、勝てない戦争の意思決定は、独善的で間違っていたのではないかと。
対照的に、あまり世間では評価されていない気もするが、徳川御三家・尾張藩のトップ徳川慶勝は、倒幕か佐幕かに二分された世の中にあって、藩論を一本化し(反対派家臣の切腹も強いたらしいが)、新政府の一員として戊辰戦争勝利のために奔走。東海道や中山道沿いの諸藩を政府に帰順させることにも成功し、結果として多くの臣民や住民の命を守った。河井継之助だって、同様なことが出来たはずと。
監督小泉堯史、原作司馬遼太郎、脚本小泉堯史、製作大角正 木下直哉、エグゼクティブプロデューサー黒田康太、小助川典子、プロデューサー伊藤伴雄、 関根真吾、共同プロデューサー住田節子、撮影上田正治 、北澤弘之、照明山川英明、録音矢野正人、美術酒井賢衣装デザイン、黒澤和子編集、阿賀英登音楽、加古隆主題歌、石川さゆり主題歌(作詞)、阿木燿子
主題歌(作曲)、加古隆音響効果、柴崎憲治俳優担当、鈴木康敬殺陣、久世浩、VFXスーパーバイザー戸枝誠憲、アシスタントプロデューサー中治人、音楽プロデューサー高石真美、
助監督酒井直人、制作担当佐藤龍春。
出演
河井継之助役所広司、おすが松たか子、お貞香川京子、河井代右衛門田中泯、松蔵永山絢斗、むつ芳根京子、小山正太郎坂東龍汰、川島億次郎榎木孝明、花輪求馬渡辺大、松平定敬矢島健一、山本帯刀AKIRA、徳川慶喜東出昌大、小山良運佐々木蔵之介、月泉和尚井川比佐志、老人山本學、岩村精一郎吉岡秀隆、牧野忠恭(雪堂)仲代達矢。