「“最後のサムライ”っていっぱい居るね」峠 最後のサムライ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“最後のサムライ”っていっぱい居るね
原作は司馬遼太郎。名作小説。
監督は小泉堯史。黒澤作品縁のベテランスタッフ。
主演は役所広司。仲代達矢、香川京子、田中泯、井川比佐志らベテラン、松たか子、佐々木蔵之介、吉岡秀隆ら実力派、芳根京子、永山絢斗、AKIRA、東出昌大ら若手…豪華俳優陣。
日本映画の匠が集った時代劇。これぞ格調高い日本映画。
格調高過ぎた…?
司馬遼太郎の原作小説は未読。既読者によると、半分も映像化されておらず、この映画版だけでは本来の『峠』を伝わり切れてないという。
またまた歴史に疎い恥を晒すが、実在の人物である主人公・河井継之助の事も全く知らない。ネット検索して本人の写真画像は見た事あったかもしれないが、ほとんど初めて知ったようなもの。
全くの無知でも勉強になり見応えある作品もあるが、今回ばかりは未読で無知者には敷居が高過ぎた。
長岡藩家老、河井継之助。
徳川慶喜の大政奉還後、東西に分裂し戊辰戦争が勃発した幕末日本に於いて、戦争回避と武装中立を目指す。
が、長岡藩も戦火に呑み込まれ、継之助も闘いの渦中へ…。
幕末の偉人は先見の明を持つ。新しきもの、開かれたものがこの国を発展させる。
それでいて武士としての誇りを失わない。
新しきと古き。美談と悲劇。
両極端の魅力を併せ持ち、その生き様と人物像はカリスマ性ある。
が、作品そのものに継之助のような魅力を感じられなかった。
戦闘シーンもあるものの、展開自体は淡々と平淡。
小泉監督と役所広司が組んだ前作『蜩ノ記』も同様だが、主軸がはっきりとし、ヒューマン・ドラマとして見応えがあった。
本作も継之助の生き様、歴史の悲劇的な逸話、夫婦愛などの魅力ある要素を含んでいるが、う~ん…噛み合っていないと言うか、どれを主軸に置きたいのかぼやけている。
各エピソードも原作小説を要所要所かいつまみ、ただ並べただけにしか感じなかった。よって、テンポも盛り上がりも引き込みもあったもんじゃない。
作品の質は高い。日本映画の匠の技。
が、演出や脚本が今一つ。
“昔ながら”や“古き良き”の精神は欠けがえないが、それが時に作品や日本映画を停滞させる節がある。
作る側や演じる側は本当に作品を理解し臨むのだから、天晴れと思う。
が、時々それが見る側に伝わらない事も…。
作り手の書き込み不足か見る側の理解力不足か、否はどちら側にもあるかもしれないし、無いかもしれない。
何だかそれは皮肉だ。作品に掛けて言うなら、悲劇だ。
未読で無知の自分はここいらで黙るとしよう。
最後に強いて言うなら、
“最後のサムライ”ってあちこちいっぱい居るね。