劇場公開日 2022年6月17日

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「ご家老。あなたはあなたの信念をこの藩に押し付けられますか?」峠 最後のサムライ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0ご家老。あなたはあなたの信念をこの藩に押し付けられますか?

2022年7月3日
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鑑賞方法:映画館

その言葉を、この映画の製作陣にそのまま返したい。
いいのか、こんな時代劇作って。筋書きどころか、時代考証だって破綻してるでしょ?
この世代の映画人がよくやる、「現代の価値観の押し付け」に辟易している。だいたい、予告で継之助が「武士はもう、俺が死ぬが最後よ」なんて言ってる時点で、何自己陶酔してるのか?と冷めていた。でも、司馬遼太郎の原作をどう仕上げるのか興味はあった。
ようやく重い腰を上げて見に行ってみると、衝撃の駄作。だいたい何、画家になれとか、オルゴールとか、そいうのいらないでしょ。その伏線の回収さえ満足にされていないし。家老だったら月代は剃った方がいいんじゃない?とか、軍監岩村は土佐弁使わないと横柄さが伝わらないでしょ?とか、ガトリング砲の意味を伝えてくれとか、次から次へとイラつかせてくる。
継之助の人物造形にも不満が多い。だいたい、継之助享年42歳に対し、役所広司66歳。当時すでに老練な駆け引きができる年齢であったとしても20歳以上離れた役者をつかうのは、違うのではないか。それは、今の40代の役者には、重みのある役ができる人がいないとでも暗に言っているようなものだ。しかも、分別盛りの穏やかな人物で描いている。違うでしょ。言葉汚く言えば「武士の体面気にして領民を巻き添えにし、ガトリング砲なんて局地戦でしか使えないバカ高いもの勝手に買いこんで、実現性の乏しい武装中立なんて理想論掲げた、我の強い人」でしょ。「侍の道を忘れ、行うべきことをせねば後の世はどうなる」と部下に諭すなら、その言葉をさっさと逃げていった藩主に言ってほしい。玉体でもあるまいし、戦国の世なら戦場にいて鼓舞するのが藩主の役目でしょうが。会津中将を見習ってほしい。だいたいその会津の共闘依頼さえ、なあなあであやふやにし、気を持たせた罪な長岡藩じゃないか。
そして、継之助の青年期の諸国遊学を描かなければ彼の見識の高さも、なぜ慕われたのかも伝わってこない。そりゃあ理解の助けになるのなら、多少の創作性はあったほうがいい。だけど、あれを見た客が、また時代劇を見たいと思えるのか?大事なことがことごとく抜け落ちているこの映画は、時代劇の恥だ。

栗太郎