「ある意味でこれが「最後の日本映画」になるかも知れない。」峠 最後のサムライ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味でこれが「最後の日本映画」になるかも知れない。
小泉堯史監督といえば、黒澤明監督作品の助監督を務め、黒澤組のスタッフを引き継ぐように監督デビューした人物。作風や作家性が同一ではないにせよ、画作りや演出におちて、確実に黒澤映画のメソッドを受け継いでいるし、小泉組の常連スタッフたちも、もはや日本映画史の伝説と言っていい。
司馬遼太郎の同名長編小説を原作に、長岡藩家老・河井継之助を主人公に描いた本作は、正直、前知識がない人にはキツイ、というか、限りなく不親切設計だと思う。例えるなら、MCUの知識が一切ないまま『アベンジャーズ エンドゲーム』を観るのに近い。河井継之助という破天荒で矛盾に満ちた人物の、最後の一年間にだけ焦点を絞り、滅びの美学に殉じていく姿を静かに見つめる。そんな構成は、いきなり最終回一回前から見るのにも似ているかも知れない。
サムライの美学、滅びの美学といった、いささか人迷惑な陶酔に溺れすぎているきらいはある。しかし、ちゃんと画面の内外に人を配し、ロングのカメラ複数台で撮影していくというもはや滅びつつある映像はずしりと腰が座っていて、そこで詩のように紡がれる「滅びの一歩手前の静かな時間」は、上品なエモさであふれている。
モブの顔つきがみんないいのもこの映画の長所であり、いずれにせよ手間と暇をかけることを厭わない姿勢に感心すると同時に、こういう豊かな映画作りは今の疲弊した日本では消えていくしかないわけで、最後のサムライならぬ最後の日本映画になるのではないか、とそんな感慨にとらわれた。人は選ぶが、題材に興味がある人にはおすすめです。
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