劇場公開日 2019年7月5日

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「いいシーンはふたつ」いちごの唄 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0いいシーンはふたつ

2019年7月10日
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鑑賞方法:映画館

幸せ

 主演の古舘佑太郎の演技は好みの分かれるところだ。家族との会話の雰囲気からして、主人公は何らかの心的障害を持っていることがわかる。言語障害も知的障害もなさそうだからアスペルガーだろうか。アスペルガー症候群の人と接したことがないのでどんな振る舞いをするのかよくわからないし、人によって症状の違いもあるだろうから、本作品の演技がよかったのかどうか判断しづらい。
 心的障害に加えて、友人をなくしたことのPTSDもあるだろうから、敢えてふたつも重ねなくてもよかったのではないか。主人公をアスペルガーに設定したためにハイテンションが持続する演技になったのだろうが、PTSDを石橋静河演じる相手役のあーちゃんだけに背負わせる演出はいかがなものかと思う。

 しかし中盤のボランティア活動では、コウタは複雑でその場での判断を求められる作業を上手くこなしていたから、心的障害は当方の勘違いかと思った。ところが東京に戻ると再び非常識な振る舞いをする。演出とプロットの都合で心的障害を利用しているみたいな感じがした。
 本作品の見どころはあーちゃんの告白の場面で、石橋靜河が語る長い台詞がとてもいい。長い間抱え続けてきた心の闇を、涙とともに流したように思えた。このシーンの演技は素晴らしい。それと宮本信子とのカフェのシーン。これであーちゃんは救われたと思った。いいシーンはこのふたつだ。

 振り返ればこの映画はあーちゃんの再生物語で、コウタは言わば狂言回しである。そう考えると納得がいくが、今の時代にこういうありふれた作品を作ることの意義には疑問がある。主人公の人物設定がブレるご都合主義には商売のニオイこそすれ、是が非でもこの作品を作りたいというモチベーションは感じられなかった。

耶馬英彦