「前向きな姿勢を貫くことを肯定するエンターテイメント映画」パッドマン 5億人の女性を救った男 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
前向きな姿勢を貫くことを肯定するエンターテイメント映画
ソニーピクチャーズ配給のインド映画。2000年頃のインドを舞台に、"インドの月経男"と呼ばれ、低価格で衛生的な生理用ナプキンの国内製造・普及に奔走した、実在の人物、アルナーチャラム・ムルガナンダムをモデルにしたフィクションである。主人公の名前をラクシュミカントに変えて演出されている。
古くから月経が"穢れ"と認識され、各家庭には、毎月、女性が隔離される部屋が用意されているという驚くべき事実。
発明好きのラクシュミカントは、妻のために衛生的な生理ナプキンを使ってほしい。そこで海外製ナプキンを薬局で購入するが、"贅沢だ"と言われてしまう。
それならばと、見よう見まねで綿製のハンドメイドを作るが失敗を繰り返し、妻や家族からは恥だと言われる。しまいには、村から追い出され、離縁状を送られるまでに発展する。
それでも諦めないラクシュミカントは、試行錯誤を続ける。
芸術・教養のある先進的な考え方の女性バリーとの運命的な出会いで、発明コンクールで優勝して賞金を得るだけでなく、国連に招待され演説するまでを描いている。
困難の壁に立ち向かう"サクセスストーリーの感動"と、音楽とダンスを交えたインド映画独特の"エンターテイメント性"があり、ヒューマンドラマとしての出来映えがバランスいい。
本編が60分経ったところで、"Intermission"(途中休憩)のテロップが入る。インド映画として137分は長尺ではないし、上映はぶっ続けで進むが、グイグイと引き込むエピソードの数々によって、最後まで目が離せない。
中国を抜いて世界一になろうとしている人口10億人のインドは、急速な経済成長や国際化に伴う常識の変化に伴い、国民生活には様々なひずみが表出している。
本作はインドでは大ヒットしたが、隣国パキスタンやクウェートでは上映禁止になっている。いつもの理由「イスラムの伝統、歴史、文化を損なおうとしている」である。安全・衛生に目を向けられないのは、残念な限り。どういう抵抗があるかは、映画を観ればよくわかる。
制作陣が伝えたいのは、生理用ナプキンも取り巻くインドの非常識を変えること。あえて伝統的な物事を真っ向から否定するのではなく、それよりも"正しいこと"、"合理的なこと"を強調しつつ娯楽映画とすることで、教育への前向きな姿勢を貫いているのが、素晴らしい。
説教臭くもなく、自慢ばなしでもない。家族愛や人類愛、恋愛要素もあり、とても楽しい映画だ。
(2019/1/1/TOHOシネマズシャンテ/シネスコ/字幕:松岡環)