「セミの音」ラストレター KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
セミの音
夏の空気やにおいがスクリーンからこちらへ漂ってくる映画だった。
さまざまなセミの音がサウンドトラックのように鳴り響き、膨らむノスタルジーをたっぷりと味わえる。
ラブレターを通して交差するあの頃と今、あの人とあの人の大切な人。
想像以上に複雑な交わり方をするそれらに最初はハラハラしてしまう。
少しずつ繋がってほどかれていく先に、人生と想いの形が見えてきた時、どうしようもなく温かい気持ちが溢れて胸がギュッと締めつけられた。
言ってしまえば、引くほど重くてねちっこい恋心。
それをしっとりと叙情的に、爽やかにロマンティックに、こんなにも綺麗に描けるものかと驚く。
出来すぎていてファンタジーにも近い展開の中に、打ちのめされるような現実も混じっている面白さ。
とにもかくにも祐里が大好き。
高校時代の彼女には移入しまくってしまった。
もう全部全部の表情が可愛くて、それでいて苦々しく切なくて。泣けて泣けて仕方なかった。
明るく振る舞ったりなんか空回りしてワタワタしちゃうのは大人になっても変わっていなかったりして。
義母へのボヤきが本当に好き。
人と人の繋がりの奇跡を信じ、どこまでも優しい姿勢を崩さない描き方が嬉しい。
ただ、あんまりにも眩しく澄んで見えるものだから、観賞後は謎の虚無感に襲われてしまった。
冷静になると結構気持ち悪い人が多くて、その気持ち悪い部分をちゃんと気持ち悪く描いてくれたなら、この映画をもっと近くに感じられたかもしれない。
この映画の中でも起こったことについて考えるのが少ししんどくなってしまう妙。
すごく面白かったし良かったんだけど、満たされた気持ちは続かない。
現状、恋も愛もしていない私の妬みの感情なのかもしれない。