「一人の人間の苦悩と成長の物語」37セカンズ しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
一人の人間の苦悩と成長の物語
凄くフレッシュな感性を感じた。映像のポップさや瑞々しさも勿論の事ながら、生きたいように生きる事への肯定感、踏み出して世界を広げる事の重要性、多様性への寛容などの、考え方、センスが、とても現代らしく若々しい。
一方で、親の過保護、その干渉から抜け出したい欲求、思春期の逡巡や憧れ、劣等感、焦り…などの普遍的なテーマも、自然な形で表されている。
私としては、障害者の性という面よりは、一人前の人間として認められない苦悩と、人間的な成長に焦点を当てた物語と思えた。
『パリ、嘘つきな恋』でも描かれていたが、人として当たり前に、能力を認められたい、経済的に自立したい、外食も、旅行も、お洒落も、恋も、セックスだって、あれこれ経験して、人生目一杯楽しみたい!という欲求は、誰でも持っているものだし、素敵な生き方。それが、女だから、障害者だから、同性愛者だから、老人だからという理由で、出来るわけない、非常識だと否定されるのは、寂しく悲しい。誰もが幸せを求める事が許され、その為の少しの助けが自然に成される世界になればいいね。
現代は自己責任論が台頭し、他人の手を煩わせるのは悪い事だという意識が強い、障害者や老人、貧困層を切り捨てるような思想や事件の裏に、その考え方が見て取れる、という内容の記事を、先日読んだ。歓楽街や外国などのアウトサイドに居場所を見い出すのも、そういった許容力の在処を示しているのかもしれない。
人間として認められたくて、自立したくて、煩悶した彼女。自分の原点を辿り、向き合い、最後には、今の自分である事を受け入れて生きる決意をした。容姿、能力、経済力、健康。何を得て産まれるかは選べない。それでも、今持てる全てで、前を向き、手を伸ばしたからこそ、手に入る物もある。
罪悪感に俯く妹を抱きしめ、涙をこぼす母の手を握る彼女は、愛と慈しみを他者に与える事のできる、魅力ある人間に成長していた。
その顔つきの変化までも、体当たりで演じている佳山さんの姿か圧巻で、強く視線を惹き付けられる。