劇場公開日 2020年2月7日

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「人生観を変えるほどの力を宿している」37セカンズ ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人生観を変えるほどの力を宿している

2020年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

生きていく強さ弱さが交錯する。SNSの時流にうまくのるアニメ作家の女性の変化に順応するしたたかさは、ユマと対極的である。ユマは弱いかというとそうでもなく、屈辱に耐えたり苦悩とつきあっていく覚悟があったり、我慢強く辛抱強い。優しさと厳しさも交錯する。いろんな立場の人が登場し、それぞれの立場で優しさと厳しさをみせていく。キャスティングや衣装がよいのか、いかにもという顔・スタイルをしているのが、おかしいまでにしっくりくる。
なんとなく見てしまうとEテレでよく見る障がい者ドキュメンタリーのドラマチック版にすぎないが、観る側の感性次第では、この2時間足らずの一作品の観賞で以降の人生観を変えるほどの力を宿しているなと私は感じた。
観た後に知ったことだが、最初は交通事故で脊髄に損傷を負った女性を主人公に設定していたらしい。それがオーディションで実際に障がいをもつかたを得て脚本を書き直したそうだ。一言でいえば障がい者の自立を描いている本作は、主人公の障がいはなんだってよかったのである。だから肢体不自由から脳性マヒへと乗り換えできた。しかし乗り換えた先でドップリとハマった。タイトルが「37セカンズ」とまでになったほどに。どんな障がい者でもよかったテーマが、一転、このユマでないとダメな作品へと転身した。その転身で、付け加わったもの、そぎ落とされたものを想定しつつ理解を深めたい。
脳性マヒという障がいについて一点補足しておくと、原因が脳損傷であるゆえ知的障害を合併するケースもあるが「脳性マヒ」という病名自体は知的障がいを含まないということ。障がいはアナログなもので有無をデジタルに判定できるものではないし、障がい者の生活環境が健常者一般と乖離する性癖を備えさせる面もある。だから作品の設定としては脳性マヒであるが、ユマについては映画の中のあのとおりでよいと思う。
しかし場当たり的なモノづくりをしたと白状する監督さん、仕事としてマイナス面もあろうに、そこにこだわらなかったのもユマのちから。作品の完成度第一で突っ走る、それは作品が訴えている素直・正直・生真面目とシンクロする。

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ピラルク