「観るべきところもあったが…」ターミネーター ニュー・フェイト swatさんの映画レビュー(感想・評価)
観るべきところもあったが…
シリーズの生みの親・ジェームズ・キャメロンが正当な続編とする本作、最近のハリウッドのトレンドを反映した作品となった。
キャスティングはハリウッドの政治的潮流を受け、性別や人種に配慮している。未来の救世主役・ダニーとそれを狙うターミネーター・REV-9はヒスパニック、ダニーを守る強化人間・グレースは女性(ダニーも)と言った具合だ。旧作から登場するサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)も女性だし、メインキャストの中では唯一の白人男性であるT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)は過去の過ちを悔い、女性たちを守るという役回りになっている。
個人的には過去の名作の現代的価値観に基づく再構築という事自体は“面白ければ、それでいい”と思っているが、本作は政治的事情を優先して映画としての完成度を損なっている。甚だしいのは面倒見のいい普通の女の子、という設定のダニーがREV-9から追われる中で明らかに不自然な速度で成長していく点だ。
REV-9を倒すためにダニーを囮にすべきというT-800と、ダニーを危険には晒せないと主張するグレースが対立する場面で、ちょっと前まで“普通の女の子”だったダニーが“私を餌にしてREV-9をおびき寄せる!”と歴戦の勇士達に号令をかけるシーンは如何にも白々しい。その後の射撃訓練でサラに一言発破をかけられただけで、百発百中で的を打ち抜く姿は滑稽にすら見えた。あまつさえ、ラストでは近接武器でREV-9とタイマンを張る始末だ。
1・2に於けるサラ・コナーの救世主の母という設定は“救世主・指導者は男に決まっている、女はせいぜいその母親にしかなりえない”という前提的通念があった。それに対するアンチテーゼとして、女性キャラクターを救世主そのものとしているのは解るが、それを1作品で表現する事によって著しく説得力を失っている。
“現代的解釈”以外の部分の失敗として最も手痛いのはREV-9が怖くない、という点につきる。その能力は1のT-800と2のT-1000を合体させただけ。高いコミュニケーション能力も併せ持ち他の人類も利用する、という点は新しいが過去の焼き直しだと倒し方もイメージできてしまうので怖くない。1や2には「どうすればコイツを倒せるんだ…」という恐怖感があり、それがターミネーターをターミネーターたらしめた。率直に言って過去作品を超えようという野心は全く感じられなかった。
以上の点を踏まえると最新技術を駆使したアクションシーンも「別にターミネーターでやらなくても良くない?」となってしまう。実際、見ていた時は迫力のある映像と思っていたのに振り返るとあまり印象に残っていない。
とはいえ良かった点もある。まずはサラ・コナーを演じるリンダ・ハミルトンだろう。あの年齢の女性がタフな戦士という役どころを得て、全く違和感を感じさせないのは凄い。また落ち込んだシーンの(いい意味での)老けこみ方の落差は素晴らしかった。
グレース役のマッケンジー・デイビスも良かった。長身でありながら、男のようなゴツさがある訳でもなく、しなやかでスピーディーな戦い方が堂に入っていた。数分間しか本気で戦えない、という設定もいい。
シュワルツェネッガーに関しては賛否の分かれる所だ。彼を登場させようとするとああいう設定しかなかったのだろうし、過去を悔いるサイボーグ、という役を意外とそつなくこなしている。とはいえ1の圧倒的な恐ろしさ、2の圧倒的な頼もしさを期待していた向きとしてはどうしても残念な気持ちを持ってしまうだろう。
悪い点、良い点をあげると上記のような感じになる。ここからは悪い点というよりは個人的な希望だ。正直、本作の政治的メッセージというのは今のハリウッドの機運をそのまま体現しているだけで何の真新しさもない(その点では本作は間違いなく凡作だ)。AIが自我を持ちうるという事が現実味を持ち始めてきた現代においてターミネーターの続編を作るのであれば、それに対し何らかの回答を提示して欲しかった。