「なんかい?」サンセット chomchomさんの映画レビュー(感想・評価)
なんかい?
安定していた仕事をわざわざ辞めて
遠路はるばる
雑踏と混沌の坩堝にやって来るひとりの娘…
この時代
ヨーロッパの中心だった
オーストリア=ハンガリー帝国の首都だった
ブダペスト
様々な人種と言語と階級と
囁きと怒鳴り声と街の喧騒に揉まれて
眩し過ぎる白日を帽子で遮って
亡くなった両親が経営していた
高級ブランド帽子店
今は他人の店…
来ても歓迎されない
招かれざる客とわかっているのに…
なんのために
ここに立っているのか?
やって来る災いに
突き動かされる…
降って湧いた
行方不明の兄のこと…
火種はそこかしこに…
手ぐすね引いて
誰かが火をつけるのを
待っている…
来てはならなかった?
来なければよかった?
帰れ!と
絡む人たちは警告する…
開かずの扉は開かれる…
上流階級の追憶
物事がうつろい沈んでゆく時…
様々な歪みの中で人々は喘ぎ
悪あがきに明け暮れる
その光景をまるでカメラアイの様に
娘の視線が執拗に追いかける
自らすすんで渦中に
飛び込んでゆく
何度も何度も
危険な目に遭っても
決して怯むことなく
突き進んでゆく…
キナ臭さがそこら中に漂いはじめる…
一分のスキなく綺麗に着飾って
他人事(ひとごと)のように日々を過ごすか…?
いっぱいいっぱいの醜い姿を恥ずかし気もなく
晒して日々に唾を吐くか…?
周りで、敵味方入り乱れて
バタバタと死んでいっても
不思議とどんなにピンチに立っても
彼女は
ある時は自らの力で
ある時は他人が
救いの手を指し伸べてくれて
そのピンチを切り抜ける…
見なくてもいいものも
自らすすんで見た
まるで目の前で起きている物事の
共犯者のように
その行動は時に火に油を注いだ…
虚飾されたものの
奥に蠢くお決まりのグロテスク
何事も綺麗事のように
日常だけが絶対的に繰り返されてゆく
兄の遺した服を身につけ
兄の幻影となって
開かずの扉を
こじ開ける
現れたその幻影が
大暴動の
合図になる
人間のこれ位ならと云う甘い考えが
次第に寄せ集まって溢れ出してしまったら
もう誰にも止められない
その流れの先にあるのは
「まさか!」
「そんなばかな!」
の他人事(ひとごと)を
まる飲みにして…
火中に飛び込んで
ひとつの終わりを
冷静に見届ける…
ふりかえりみれば
焼け落ちてゆく両親の帽子店…
この光景を見る為に
ここに立っている…
人の命は羽飾りよりも軽く
戦争は正義の産物でしかなかった…
ふと
気がつくと
あなたは
冷たい雨にうたれて…
戦場の
塹壕の中に立っている…
戦場なのに
それっぽい音はしない…
あなたは
なんでいま
ここに立っているのか
わからない…
これからあなたが
見る
ことを
あなたは
どれだけ
想像できますか?
決まりきった
わかりやすい話や
キラキラした登場人物や
ド派手なアクションが
すべてのわけがない
わからづらいから
駄目とか
あまりに怠慢過ぎるように思う…
与えられることに
馴れきってしまった
じぶんは
あなたの目に
どう映る…?
映画の可能性は
そんなに薄っぺらではない…