劇場公開日 2019年3月9日

「決して救うことはできない距離感で我々は歴史を見つめている」ROMA ローマ 冥土幽太楼さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0決して救うことはできない距離感で我々は歴史を見つめている

2020年8月8日
iPhoneアプリから投稿

徹底的なひきの構図、一定の距離で縦と横に移動するカメラワーク、白と黒の間のグラデーションの間で揺蕩う景色。
これを観ている我々が神の目線にいることを意識した造りである。
昨今は臨場感や主観性、共感性を観客に与えるために、そのようなことを意識させない造りが主である。
あたかも我々が映画の中にいるような作りとでも言おうか。
しかし、この映画は我々をその世界の中には入れてくれない。
あくまで外から、神や幽霊の目線から、この世界に生きる人々を眺め続けなければならない。
だからこそ、この不条理な世界の惨状に憤りを覚え、無力感に襲われる。
救いの手を差し伸べたい欲求に駆られる。
ベルリン天使の詩の天使のような気持ちにさせられるのだ。
しかしどうやったって地上に降りることのできない私たちは、この映画の結末を見守るしかない。
映画を通して我々が目撃するのは、
愛で傷つき、愛で救われる人々の普遍の在り方である。
そして終盤にかけて、この映画の徹底的な構図やカメラワークのこだわりこそが一種の伏線であったと気付かされたとき、その驚くべき映画の完成度に圧巻させられる。
そしてこれは、監督自身が「大切な誰かのために」、また「この時代だからこそ」作らなければならなかった映画だったことを知る。
バックグラウンドから構図、映像美、サブテキスト、など様々な難解さを自然と盛り込みながら、これほど愛に満たされ、人の感情を滑らかにさせる映画は稀有である。

冥土幽太楼
Mさんのコメント
2023年6月23日

私は幸いにも、この映画を恵まれた環境の映画館で見ることができました。
今、この映画が配信でしか見られないことが残念でなりません。
「その驚くべき映画の完成度」という表現がありましたが、まさしくその通りの作品だと思います。
何とかこの作品が、音響などの恵まれた会場で、ある程度の期間、上映されることを期待してやみません。

M