劇場公開日 2019年2月15日

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「逞しき女性達の勝者無き覇権争い」女王陛下のお気に入り しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0逞しき女性達の勝者無き覇権争い

2019年3月6日
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怖い

女王と二人の側仕えの、皮肉たっぷりな宮廷愛憎劇。
闇の中、自然光や炎に照らされて浮かび上がる、コントラストの強い映像が、まるでレンブラントの絵のようで美しい。
きらびやかな宮殿や華美な装いの陰に、どんよりとねっとりと沈殿する欲、妬み、性。
内容にピッタリの色合いで、観客の印象を導いていく。
衣装、画面の切り取り方、章冒頭のサブタイトルのロゴ配置などは、現代的なスタイリッシュさも感じた。

実在人物らしいが、三人の女性のキャラクター対比も巧妙。
癇癪持ちで寂しく悲しく臆病な女王、サラの男勝りの気の強さと知性と辛辣さ、若く美しくずる賢く女の武器を駆使するアビゲイル。
各々が各々の思惑で、愛情を弄び思い通りにしようとすったもんだ。
コメディとの事だが、恐さやうすら寒さが先行しちゃって、私はあまり笑えなかった。馬鹿馬鹿しさを感じるシーンは多々あれど、笑うより呆れるというか、あーあ、って感じ。
ただ、三人共が良くも悪くも人間味たっぷりで、好意は持てないが、憎めもしない。
哀しく我儘な女王、傲慢ながら聡明でカッコいいサラ、底辺から必死に這い上がろうとするしたたかで逞しいアビゲイル。
反して、見目を着飾り、馬鹿馬鹿しい遊びに耽り、女達に翻弄されるばかりの男達の情けない事!

アビゲイルの狡さは女王も解っていたように思うが、何故サラを遠ざけ彼女を残したのだろう。
自らの本当の気持ちを汲み取らずに戦争継続に押し進むサラに、本当は危険を感じ取っていたのかもしれない。
どうせ心から自分を愛する者などいないのならば、今までの献身の対価として満身創痍のサラは放逐解放し、束縛し奉仕させるのは新たな生け贄に…という事だろうか?
所詮飼われる兎と同じ…。奉仕させる女王の虚ろな表情と、頭を押さえつけられ苦痛に耐えるアビゲイルに対し、もうイングランドにはうんざり、と強がりながら追放を受け入れるサラの目には、まだしも生気があった気がする。
道徳心を投げうって必死で争った挙げ句に、誰一人幸福そうでない結末が虚しい。

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しずる