「全てあとの祭り」女王陛下のお気に入り KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
全てあとの祭り
従順な味方がいつ危険な敵に変わるとも知れないんだから。毒っ気たっぷり。
鑑賞後の虚脱感はピカイチ。
アビゲイルののし上がり劇に興奮したのも束の間、だんだん出てくるやり過ぎ感とツケ払いが痛かった。
レディの立場を取り返したところで何かその先に目的があるわけではなく、絵に描いたような堕落と油断がやるせない。
最初はその野心的な姿勢に「いけいけー!蹴散らせ蹴散らせやっちまえ!」と応援していたものの、描き方が少し変わった途端に「やり過ぎでは?サラが可哀想…」と掌返す我々観客への皮肉が刺さる。
ただ見ているだけで何を偉そうに。申し訳ない。
常に寂しくて自分自身を悲観し人が妬ましくてたまらない女王陛下アン。
歯に衣着せない物言いの友達側近サラとの日々に突如現れた、甘い言葉を囁き全てを包み込み肯定し楽しませてくれるアビゲイルにどんどんハマっていく様が分かりやすい。
突拍子もないことを言い出したりするとはいえ、何を求めているかが分かればその心の内に入り込むのも案外容易な気もする。
大好きな二人が自分を取り合い牽制し合う様子が愉しいのはなんとなく分かるかも。
ただの脆い人と思いきや案外強い部分も見え隠れして、流石女王と言いたくなる。威厳って大事。
友人兼側近として常に女王を支え、参謀として実権力をモノにしていたサラ。
夫の戦績への欲なのか国のことを本気で考えているのか、その過激な金策は良いとは言えず、まんまとそこを利用されてしまう。
独占欲は強いが特に悪いこともしていない彼女の陥落は終盤見ていて少し悲しくなった。
愛に飢え権力に飢え、それぞれに喰われた女たち。
こんなはずではなかった、正しいことを言っていたのは誰だったのか、信頼は得られないと、諸々に気付いたところで全部全部あとの祭り。
共依存的関係が解消されると開放感と消失感が交互に襲ってきて辛いだろうな。
あの後のことを考えてもなかなか絶望的な生殺し状態が続きそうで背筋が震える。
この手の話になると必ず「女は怖い」などと安易に言う声が聞こえてくるけど、スポットの当て方が違うだけで皆同じだと思う。
敢えて言うならこの人たちが怖いだけ。
ハーリーの多方向から攻めてくる政治戦略を中心に置いてもまた面白そう。でもこの人はかなりまともなこと言ってるか。
普通の女は腕力では男に勝てないけど、アビゲイルはマシャム大佐に対して常に手の力で勝ち伏せていたところが好き。
わざとらしいオーケストラの宮殿音楽にどこか現代的な柄の混ざったご婦人たちの衣装、響くアクセサリーの鳴る音が素敵だった。
全体に漂うポップな不穏の空気は流石。とても好き。