劇場公開日 2019年11月1日

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「心がギュッとなりました」マチネの終わりに canzouさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5心がギュッとなりました

2019年11月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

元々原作者のファンで、本作に関しても映画化が決まる前から読んでいた。

自分が好きな作品の実写映画化というものは、なんとも不安なものだ。例に漏れず今回も酷くモヤモヤしていた。もちろん、本には本の、映画には映画のいいところがあるというのは重々承知している。けれど、自分が字を読みながら自分の頭の中だけでイメージしていたあれこれが、いざ目の前に違う姿で現れることは何回やっても慣れないもの。SNSで知り合った人と初めて会う日みたいな、お互い知ってるしすごく楽しみだけど、どんな人なんだろう、ちゃんと話せるかな、なんか不安。そんな気持ちで今回も劇場に足を運んだ。

だがしかし、大抵そういう不安てやつは会ってみると一気に吹っ飛ぶ。そして、会ってよかった最高だったと思うようにできているのだ。僕のこの作品に対する不安は、開始1秒、あの音が鳴った瞬間、吹き飛んだのだった。

大人の恋愛って、10代20代には絶対ない粘り気と濃密さと、そしてなんともいえない優しさがある。苦しすぎるあれこれにも、人生山あり谷ありを経験してきた40代にとっては、それすらも我慢し、飲み込んで、グッと抑えることのできる深さもある。深まっていく2人の愛情はなんともリアリティあるもので、『幸福の硬貨』を聞いていると本当にそういう思いがいろんなところに透けて見える。燃え上がるような青春もいいけど、こういうのも悪くないよなと、鑑賞後、スッと心地よい気持ちにさせられた。

この作品を通して重要なキーフレーズである、「未来は過去を変える」という言葉。普通に生きていれば、人間消してしまいたい過去やしまっておきたい過去の1つや2つや3つ持っているもの。あるときそんな過去が、全く別の表情を見せることがある。ここにきて奥底からそんな顔してくれるなよと、しまっておいたあれこれを見て思う。すごくデリケートで繊細で、じゃじゃ馬すぎて本当に困ったもんだと項垂れる一方で、そんな過去があったからだと、愛おしくて堪らないそれらを見て思う。そんな瞬間を、これから先増やしていける未来に出来ればと。

寒くなってくるこの時期に、主演2人も含めて、街や情景、音楽、食べ物、部屋の感じから何から何まですごくマッチしていたのもよかった。人の縁と愛は、回数じゃないなぁと思った次第。原作ももう1度読み返したい。すごくよかった。

canzou