「亜弓の開業資金はどうやって調達したんだろう?」凪待ち 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
亜弓の開業資金はどうやって調達したんだろう?
香取慎吾さんの渾身の演技が出色の出来であることに全く異論はありません。香取さんの演技が素晴らしかったので、木野本郁男の再生物語が、ある種のファンタジーとして描かれていれば、素直にいい映画だったな、と受け止められると思うのですが、印刷工場の配電盤や製氷工場の積み下ろしなどに象徴されるリアルな演出が想像力をフル回転させてしまい、鑑賞後は希望よりも現実的な困難の方が否応なくのしかかってきて先行きに対する不安や重苦しさに包まれてしまいました。
❶亡くなった亜弓について
自主的な判断や選択の余地を与えない決めつけの言動で子どもを躾けようとする親は子どもの心を傷つけることが多い。象徴的なのは、子どもにとって大事な友達を金髪であることひとつをもって付き合うべき友達ではないと決めつけた発言。自分にとって救いともなっている友達を子どもにとって理不尽な理由で否定すれば当然、子どもからの信頼を失う。
生きていたら、毒親になっていたかもしれないが、だからこそ、香取慎吾の、子どもであってもひとりの人格として接してくれる父親振りが美波からの信頼に繋がる、という皮肉。
❷木野本があの街で生きていくことについて
勝美じいさんが生きているうちは、ある程度表面化するのが防げるかもしれないが、心ない一部の人間による口さがない噂や邪推(※)、或いは、この街が小野寺という怪物を生んでしまったことに対する後ろめたさが逆恨みのような情念になって木野本や美波への、お前たちが帰ってきたからこんなことが起きてしまったのだ、もう出ていってくれ、という空気を作ってしまうことが起きるのではないか。
そして、勝美じいさんのいない世界で、もし木野本がまたギャンブルによる借金やトラブルを起こしてしまったら、今度は美波も巻き込まれることになる。
祭りや工場での喧嘩騒ぎやギャンブル依存によるヤクザとの関わりを考えたら、少なくとも、木野本の再生・更生を暖かく見守ろう、という人間よりも厄介者扱いする人間の方が多いのではないか。
※たとえば、亜弓の美容室の開業資金を小野寺が出していたのではないか、その金銭を巡るトラブルが殺人の動機ではないか、みたいなことをあの元夫あたりが発信源となって勝美じいさん、郁男、美波にとって耐えがたいうわさ話が流布されるようなこと
(実際のところ、あの開業資金はどこで調達したのだろう?)
現実世界に存在する人間の弱さやずるさがあれだけリアルに描かれてしまうと(まさにこの監督の凄みの部分)、想像力もリアルに刺激されてしまい、とても辛いことになってしまいました。
少し前に『逆ソクラテス』をお薦めいただきましたが、お高かったので文庫化を待つことにし、とりあえず伊坂幸太郎を知る為に、文庫本の『ホワイトラビット』を読み始めました。ミステリーは好きなんです。読むのが遅いから、読み終わった頃には逆ソクラテスの文庫本が出てたりして。
琥珀さんが決めつけてるなんて、そんなこと思っていませんよ(笑)
亜弓の方は決めつけてたと思います。ただ、娘を支配するとかじゃなくて、余裕が無かっただけかなと。私の母も人を決めつけて否定する物言いばかりしたので、それについてはかなり嫌だったしちょっと恨んでますが、今考えると、私を産んだ時まだ22歳だったので、余裕が無くて当たり前だったのでした。
明るい兆し、とは言い切れない重苦しさがありましたよね。亜弓の娘に対する言動は良くなかったとは思います。が、土地柄を考えると、東京辺りよりも金髪に対する拒否感はかなり強いですから、元々ここの生まれの亜弓が金髪=不良と偏見を持ったから毒親、と言ってしまうのはかわいそうかも。