「ファンとして。亡き奥様エヴァの色彩の大切さにも思いを馳せながら。」蟲(2018) Sayachanさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンとして。亡き奥様エヴァの色彩の大切さにも思いを馳せながら。
アリスやファウストやオテサーネクや悦楽共犯者が好きだから映画館に見に行ったよという方は、今作を見てどう感じたかな?と思いながら今、レビューを書いています。
ルナシーが好きで観に行ったよ、という方は、また今回も哲学的なことや、それを打ち崩すかのようなシュールレアリスムの不思議さの世界に溺れることができたのでは。共同制作者だった奥様エヴァが亡くなってからの、監督単独での新しいアプローチや視点、今作でも感じることができて、観にいってよかったです。
私はやっぱり、エヴァとの共同制作全盛期の作品が大好きです!
あのグロさ・かわいさは、エヴァにしか出せない色だったと感じるし、私はまだまだ今も恋しい。この恋しがる気持ちを大切にしながら、90歳の監督の、私なんかには計り知れない様々な感性に思いを馳せる、そんな素敵な時間になりました。途中、オテサーネクやファウストを彷彿とさせる場面があって、その点も満足度高かったです。
とか、ファンを気取ってみたものの、エヴァやヤンシュヴァンクマイエル監督の人物面について、私はぜんぜん理解していないので、だからこそ、この作品の中で制作風景をちょっとでも垣間見れたことが嬉しかったです。監督がスクリーンに登場するたびに、思わずニコニコしながら観てしまいました。(同時公開中のドキュメンタリーのほうもこれから観ます!楽しみです!)
舞台と、舞台役者たちの練習風景と、この映画自体の撮影風景という3層構造でしたが、それを映画館で観ている私自身も含めると4層構造。そこへさらに役者たちの夢の話など挿入されていて、そのぜんぶがごちゃ混ぜになり、最後は境界線が溶けてすべてが(今作に出てきた)咀嚼後の胃の内容物のようにどろどろっとまとまっておしまい。大満足。
そして今のこの、なんとも言えないこの読後感、ヤンシュヴァンクマイエルファンが求めているものは今作にもちゃんと用意されていました。そうそう、これこれ、この感情だよね。と今思っている自分も含めると5層構造。(いやそれは言い過ぎでしょうか。)
今夜は悪夢が見たい気分。私の人生も含めてごちゃ混ぜにされたい!と、なぜか思ってしまうこの不思議な感覚。
監督に長生きしてほしい。
これまでも含め、素敵な作品を本当にありがとうございました。
最後に、、、
いつも5〜6人しかいない映画館で、15人くらい人が入っていたことと、エンドロールが始まっても立っていく人も話し始める人もいなくて、(私の妄想かもしれないですが)みんな灯りがつくまで呆然とスクリーンを見つめてる感じ、よかった。
案外、こういうのをこういう気持ちで鑑賞したい仲間は世の中に多くいるのかな、いやいないかな、と考えていました。映画館で見れて良かった。