「不屈の黒鳥トリオ」ルイスと不思議の時計 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
不屈の黒鳥トリオ
昨秋同時期公開のファンタジー映画ではディズニーの『くるみ割り人形と秘密の王国』の方に話題も注目も持っていかれたかもしれないが、両作見てみたら、こちらの方がずっと面白い。
さほど期待していなかった分、結構楽しめた。
原作はハリポタのようなファンタジー小説シリーズ。
物語上の危機はかなりの大事件でありながら、作品のスケールはハリポタや他のファンタジー映画ほどの大作感は無い。
悪く言えば、スケール感に乏しい。でも良く言えば、手頃に見易いコンパクトサイズ。
ファンタジー映画の定石を踏まえつつ、ブラックなユーモアと、ちょっぴりのホラー要素。
そこがミソ。
と言うのも、本作の監督はイーライ・ロス!
ファンにはお馴染みのホラーの鬼才。
ホラーはホラーでもこの人が手掛けるホラーというのが、エログロの『ホステル』や人食の『グリーン・インフェルノ』など、マニアック/ディープ/ゴア系。
そんな監督が、企画を勘違いしたのか、それとも人選を間違ったのか、まさかのファミリー向けファンタジー!
無論、企画の勘違いでも人選ミスでも無い。
この監督がこういうジャンルも撮れる、意外で何だか嬉しい新境地!
さてさて、お話は…
両親を亡くした少年ルイスは、叔父ジョナサンの家に引き取られる。
叔父の家はこの町じゃ有名な“呪いの屋敷”。そして叔父も“変人”。
確かに屋敷はヘン。叔父もヘン。
それもその筈。
何故なら叔父さんは、魔術師だった…!
魔術師と言っても、叔父は二流。
いや、ズバリ言うと、ポンコツ。
それがジャック・ブラックに合っている。
隣人のツィマーマン夫人も魔術師。
彼女は一流。
これまたケイト・ブランシェットに合っている。
この二人の夫婦漫才のような、お互いの罵り合いが愉快。
「紫ババァ」「ゴリラ男」「死ねば?」などなどなど。
ジャックとケイトの初共演はともかく、ケイトがイーライ・ロスの作品に出演する日が来るとは…!
ファンタジー映画の主人公のあるあるは、秘められた才能があるとか、亡き両親が偉大な魔法使いとかだが、ルイスは至って普通の少年。
と言うか、内気でちょいオタクで、学校でものけ者。
そんな彼が叔父から魔法を習う。
勿論映画の中の事だが、学べば誰だって魔法使いになれる。
何だかハリポタより身近に感じられた。
さながらルイス少年の“魔術師の弟子”。
先にも述べたが、確かに叔父はヘン。
夜も昼も屋敷の中を徘徊している。何かを探すように。
実はこの屋敷には、恐ろしい秘密が。
“呪いの屋敷”と言われるのは本当で…。
叔父の前の家主も魔術師。
黒魔術師で、かつては叔父と親友であった。
ある恐ろしい野望の途中、命を落とした。
その野望というのが、時間を逆行させ、人類を消し去り、世界を終わらす。
時間を逆行させる事の出来る恐ろしい魔法の時計を、この屋敷の何処かに隠した。
叔父はツィマーマン夫人と共にその時計を探している。
そんなある日、ルイスは最悪の過ちを犯してしまう。
屋敷には絶対に開けてはならない棚がある。その中にあったのは、禁断の降霊術が記された本。
ルイスは友達に魔術を見せようとして、降霊術をしてしまい、死んだ黒魔術師が蘇ってしまう…!
これは黒魔術師とその協力者の用意周到な罠。
ルイスの弱みに突け込んだ。
この魔術を使えば、死んだ両親を生き返らせる事が出来るかもしれない。
癒えない悲しみ。
叔父はルイスを咎める。
叔父も子供への接し方が分からない。不器用なんじゃなく、臆病。
そんな叔父に、家族というものを教えるツィマーマン夫人。
彼女もまたある悲しみを背負い、今は魔術が使えないでいる。
孤独な半人前と臆病なポンコツ者と悲しみ背負った者。
“黒鳥トリオ”が世界の終わりを阻止する為に立ち向かう。
不屈さで。
屋敷内や庭のユーモラスでレトロ感のある美術。
庭で叔父が見せた魔法は美しく、ファンタスティック。
蘇った黒魔術師のゾンビメイク、襲い来るからくり人形、カボチャの○○、ライオンの木像の○○、終盤ある姿になってしまう叔父…。
監督らしい不気味さやブラックなユーモアも健在。
確かにスケール感には乏しく、クライマックスの黒魔術師との闘いはいささか盛り上がりに欠けたが、面白味は充分。
ちょっぴりダークで、ユーモラスで、ハートフル。
イーライ・ロス流ファンタジー!
原作はシリーズ化されてるので映画も続編見てみたいが、日米共に中ヒットだったので、微妙かな…。
でもその時は、この監督とこのトリオで。これだけは譲れない!
吹替で鑑賞。
佐藤二朗、宮沢りえもなかなか良かったが、何と言っても、ルイスと同級生の声優陣。
コナン、しんのすけ、ポケモンの声優陣が揃い踏みとは、何と豪華贅沢!