「もしかしたら本作は蒲田行進曲のハリウッド版リメイクだったのかも知れません」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
もしかしたら本作は蒲田行進曲のハリウッド版リメイクだったのかも知れません
昔、昔、ハリウッドという魔法の王国がありました
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こうして王子様とお姫様の命を狙う悪い魔法使いは騎士と従者の活躍で退治されて魔法の王国には平和が訪れました
そして、みんな幸せに末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし
ラストシーンにエンドマークの代わりにでる、ワンス・アポン・ア・タイムのタイトルはつまりこういう物語なんですと説明しています
だから子役の少女が読んでいる本はウォルト・ディズニーの伝記なんです
だからポランスキー監督は貴族風の衣装を着てシャロン・テートとクラシックカーに乗っているのです
だから正義の騎士は従者を連れているのです
そして修行の為に遠い遠い国に冒険の旅にでて魔法の王国に帰ってくるのです
1969年当時を知る人は70歳近くなっている団塊の世代のお爺さんお婆さんぐらいでしょう
ですが私達はその当時のハリウッドの街を映画やテレビの中の背景をとしてとても良く見知っています
何故なら私達は絵本に描かれた絵で魔法の王国の様子を知っています
石畳の街路、鍛冶屋、お城の門
ほら、ディテールまで目に浮かぶでしょう?
同じことなのです
だから驚嘆できるのです
本作の中のハリウッドはその当時のハリウッドの街並みそのものだと
その当時はまだ産まれてもいなかったり、物心つかない子供であったのにこうだと知っているのです
そしてずっと鳴り続けるラジオのアナウンサーの声の調子抑揚の付け方
そんな昔のアメリカのラジオなんか聴いたこと無いのに何故か知っているのです
これだ!昔のラジオはこうなんだと
音響が実は凄まじく凝っています
当時のヒット曲をまるで本当に当時のオーディオセットで聴いているかのような音で鳴らして見せます
何気ない周囲の音をサラウンドを駆使してリアルに様々な位置で、後方や上方にも定位させます
それは映像がハリウッドの街並みを車で流すのシーンが長いのと同じです
私達観客をその当時のハリウッドに連れて行こうと懸命な努力をしているのです
建物、看板、ネオンを逃げずに出来るだけ多く見せようとしています
そしてどれも自然でCGだとか合成だとかのチープな印象はこれっぽっちもない見事な特撮なのです
クレジットを見るとなんとジョン・ダイクストラ!
特撮界では神様、黒澤明なみの巨匠を起用しているのです
つまりそれほど監督は特撮と音響に力をいれて、当時のハリウッドという魔法の王国の再現に力を注いでいるのです
何故?
だってナルニア王国物語なら、その世界の構築が最重要なのと同じことなのですから
ジャンボジェット、ボーイング747が登場します
それがインディジョーンズのダグラスDC-3機が担っていた昔の飛行機というアイコンとして使われているのです
螺旋階段で二階席に登るなんてシーンが古さを表現する時代になったのですね
そう今はもう21世紀の超未来なのです
新宿三丁目にそっくりさんの出演するショーパブが有ります
テレビのスターの物真似番組にでてくる人達が出演するお店です
久々にそのお店に行って来たような気分もあります
前半の数々の映画やテレビへのオマージュ、マックイーンやブルース・リー役の仕草や話し方の物真似ぶりなどは、可笑しくて、可笑しくてニヤニヤしどうしどころか吹き出しそうになります
大脱走のマックイーン登場シーンの合成シーンも吹き出しそうでした
中盤のマンソンファミリーの牧場シーンは重要ながら冗長すぎでもう一工夫は欲しかったとは思ってしまいますが、一体世界中の誰がこのような傑作を撮れるというのでしょうか
やはり異能、奇才、タランティーノ監督です
素晴らしい作品でした
エンドクレジットに流れる当時のタバコのCMのオマージュ
あれは現代ではあり得ないものです
現代ではタバコの広告なぞ最早あり得ない世の中になっています
つまりタバコと同じように過激なエログロや、使ってはいけない言葉、政治的に正しいのかと配役や脚本に介入され規制を受けている現代のハリウッドの製作現場の実状への皮肉です
つまりこのままでは魔法の王国を守っていた魔法が解けてしうかも知れないと監督は警鐘を鳴らしているのだと思います
ローズマリーの赤ちゃんとテスの2本を予習にご覧になられているとより楽しめるとおもいます
いや、それよりも深作欣二監督の蒲田行進曲を観ておくべきでしょう
もしかしたら本作は蒲田行進曲のハリウッド版リメイクだったのかも知れません