「人間の尊厳の存在しない世界」ブレッドウィナー しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の尊厳の存在しない世界
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数十年前、タリバン政権下のアフガニスタンを舞台にしたアニメーション作品。
タリバンは、イスラム教義の極端な解釈により、女性の権利や行動を厳しく制限し、逆らう者を激しく弾圧した。
教師であった父親がタリバンに拉致され、家族に男性は幼い弟のみ。
女だけでは、仕事も、食料の調達も、ただ外を出歩く事さえできない。
追い詰められた家族を救う為、年若い少女パーヴァナは、髪を切り、少年のふりをして仕事や買い物に出始める。
平行して、パーヴァナが語る少年の冒険物語が、現実世界の苦難を重ね合わせ、望みを託すように、影絵のような幻想的な色彩で綴られていく。
女というだけで服従を強いられ、殴られ、未来を奪われる。厳しい男尊女卑が描写の中心となるが、不条理はそれに止まらない。少年は暴力に洗脳され、人々はそこここに埋まる地雷で愛する人を亡くし、恐怖に怯えて良心を押し潰す。戦闘機が空を飛び交い、容易に銃が人に向けられ、いつ命が奪われてもおかしくない。
何処にも逃げ道が見出だせない状況に胸が詰まる。
少年の冒険は終わりを告げるが、現実は何も変わらない。お伽噺のような救いは訪れない。家族はバラバラに、先も見えず、助けてくれた男の命の保証も無く、街は空襲で焼かれたかも知れない。
その中で、パーヴァナは祈るように物語を口にする。何時でも物語が心の支えであったから、そして物語の少年は、言葉で怪物に立ち向かったからだ。
「怒りではなく言葉を伝えて。花は雷てなく、雨で育つから」
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