「人間関係」愛がなんだ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
人間関係
最初は狂ってはいるがいたって普通だ(矛盾している)。重たくて都合のいい女と体良く利用する男。濃さが若干違うだけで、よくある光景だ、多分。しかしそこから先の展開が難しい。
かつて狗飼恭子の「おしまいの時間」を読んだとき「恋愛とは諦めと妥協である」という台詞を眺めてそこだけ妙に腑に落ちた記憶がある。自分が好きな人が自分の事を好きなんて、確率的におかしいのだ。しかし人間はいい意味で忖度できるから危うい関係が成り立つのだ。
それでいうなら岸井ゆきの演じるテルコは、妥協しているようで妥協できない人間の極致だ。相手を飲み込むような、圧倒的なまでの愛、いや、本人も言うとおりそれは最早執着というか、「相手になってしまいたい」という乗っ取り的な感情。理解しがたいようで本質的に理解させられる恐ろしさ。
成田凌の守は純情とクズ男のバランスで成り立っている分まだ人間くさい。矛盾の象徴のようだ。自分がつらいと感じることを好きな相手にはできてしまう。繊細な癖に機微が分からない。作中随一の鈍感男。
ふたりは根幹の情の濃さが似ているが故に決定的に合わない。これ友だちだったらよかったね...と観ていてつくづく思ったが、多分無理だろう。恋愛という謎めいた執着心を媒介にしか繋がれないふたり。
深川麻衣と若葉竜也が大変よい。友人を叱る強く(見える)女とただ見守る男。だけではないなにかがある関係。若葉竜也演じる仲原がテルコに語るシーン、あそこでどことなく愛の違いが浮き彫りになる。飲み込む愛か、願う愛か。正しさではなく、ただの形の違い。
結果的にさまざまな愛=人間関係を観せられ続け、人間関係が駄目な私は疲弊しつも心が揺れた。揺れる。恋愛映画というだけではない、人間関係の映画。深く脆く面倒くさい。