「たくさん笑わせてもらった」また、あなたとブッククラブで 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
たくさん笑わせてもらった
ご存じの方は少ないと思うが、ジェーン・フォンダが主演した「バーバレラ」という映画がある。未来の宇宙を舞台のセクシーコメディというハリウッドのB級映画で、ヘンリー・フォンダの娘がこんな映画にでていたのかと驚くと思う。当時のスタイルのよさは特筆モノで、本作品でも衰えていない美しいプロポーションを披露している。流石である。
人間にとって性生活は死ぬまで悩ましいものである。その悩みは男女でかなり異なっている。男の悩みはまずポテンツと金だ。あとは病気の心配。女性の場合はかなりナイーブで、多少なりとも恋愛感情がなければ欲望に結びつかない。一方で女性はいざとなるとバルトリン氏腺を分泌して性器が傷つかないように守るように出来ている。売春婦という商売が成り立つのはそのためだ。
松坂桃李が主演した「娼年」という映画は女性に買われる男娼が主人公だった。主人公を買う女性客は、ただ淫乱な人やご無沙汰で女を取り戻したい人などだったが、いずれも十人並み以上の容貌で、主人公が勃起不全に陥ることはなかった。しかし場合によってはまるで勃たないことがある。たとえ相手が絶世の美女でも勃たないことがあるのだ。だから昔から男娼というのは相手が男の場合しか成立しなかった。しかし今ではバイアグラなどがあるから、女性相手の男娼も可能かもしれない。
本作品はアメリカ映画らしく性生活にオープンな裕福な高齢女性たちの喜怒哀楽を面白おかしく描いている。アメリカの病巣である差別や格差はとりあえず横に置いておく。大岡越前守が母親に女の性欲はいつまでかと聞くと黙って灰をかき回していたのを見て、肺になるまでなのだと納得したという逸話がある。本作品を見る限り、その話は本当だったという訳だ。
裕福だ、時間も余裕がある、多分身体の機能はまだ大丈夫だ、濡れるときは濡れる、勃起する男がいればなんとかなる、兎に角、自分はまだ女なのだ。自分たちの性欲を思い切り肯定し、遅ればせながらの青春を楽しもうとするのは非常に健康的で、なんとも逞しい限りである。たくさん笑わせてもらった。
老女が活躍する映画となると、ダイアン・キートンが常連のように出演する。「チア・アップ」や「ロンドン、人生はじめます」はとても面白かった。この人は眼鏡をかけた顔がキュートに見えるし、体型もそれほど崩れていないからいつでも主役を張れる。本人の努力もかなりあると思う。本作品でも宅配のピザを食べてブクブク太っている娘たちよりもよほど若々しく見えた。ジェーン・フォンダともども、当分は矍鑠(かくしゃく)としていてほしいものだ。