「長い詩を観ているような」バルバラ セーヌの黒いバラ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
長い詩を観ているような
本作品は映画を製作する中での人々の振る舞いをセンスよく描き出した映画である。シャンソン歌手というと金子由香利さんのコンサートには行ったことがある。歌は素晴らしいが話はいまいちだった。岸洋子はパソコンでしか歌を聴いたことがないが、低音で滑舌のいい歌声は聴いていて飽きることがない。ダミアはCDで聴いていた。クミコのコンサートには屡々出掛けている。
しかしバルバラは聴いたことがない。この映画を観るまでは名前も知らなかった。大学でフランス語を習ったにもかかわらず、我ながら不勉強であった。
バルバラを演じる女優ブリジットの役を演じたジャンヌ・バリバールもこの映画で初めて見た女優だが、歌も踊りも身のこなしも見事で、バルバラなりきろうとするブリジットの揺れ動く心が伝わってきた。バルバラの本人映像も交えながら、ときに怒りに身をまかせ、ときに音楽に酔いしれながら歌う姿は、パリの歌姫ならさもあらんと納得させてくれる。
映画監督役の俳優は同時にこの映画の監督でもあるというややこしい役割だが、バルバラへの尋常でない愛着をうまく表現していて、映画を制作する人の情熱のありようがわかる。ブリジッドに振り回されることさえも楽しんでいるようで、ときにブリジッドのほうが監督のあまりの情熱のせいで逆に熱が冷めてしまう場面もあり、そういう大人の関係性に思わず一杯やりたくなる。
最初からずっとフランス語の低いトーンで喋りまくっている映画だが、それぞれの台詞があたかも詩の一節であるかに響き、とても長い詩を映像で観ているような気がした。美しい作品である。
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