「これが本当のリアルサスペンス」ジュリアン りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
これが本当のリアルサスペンス
アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とミリアム(レア・ドリュッケール)のベッソン夫妻。
ふたりは既に離婚しているが、子どもの親権について争っている。
姉のジョゼフィーヌ(マチルド・オヌヴー)は18歳というこでほぼ成人として扱われるが、弟ジュリアン(トマ・ジオリア)は11歳。
彼の養育や面会についてが争点。
暴力的なアントワーヌのことをジュリアンは恐れていて会いたくないと陳述したが、調停の結果、隔週の面会が許可される。
しかし、ミリアムはアントワーヌを極力避けし、新たな住所も電話番号も教えない・・・
というところから始まる物語で、子どもを挟んでの夫と妻の物語は、昨年観たアンドレイ・ズビャギンツェフ監督『ラブレス』を思い出したが、行き着くところは違っていた。
基本的には暴力夫から逃げ出す妻子の話だけなのだが、丹念に撮られた前半は魅力的。
いつ爆発するかわからない男アントワーヌを演じるドゥニ・メノーシェが心底怖く、彼の自家用車の助手席に乗ったジュリアンが涙を流すシーンは、本当に怖がっているとしか思えない。
で、これが米国映画だったら、夫側も妻側も弁護士が出てきて法廷闘争となるところだけれど、フランスではそうはならない。
というか、弁護士を雇うほどの金銭的余裕はなく(冒頭の調停のときのみ弁護士を雇っているが)、どうにも法律で解決し、その後、遵法精神があるような人物ではない。
ということで、最終的にはアントワーヌが暴力に訴え、ミリアムとジュリアンのもとを襲撃してしまう・・・って、なぁんだ、サスペンス映画かぁ、って残念。
サスペンス映画というジャンル映画ならジャンル映画のように撮ってほしいかったなぁ。
前半がリアリティ溢れての地味地味映画なので、突然、怒り狂うアントワーヌには驚かされはするものの、呆気ない結末も含めて、うーむと首をかしげたくなりました。
ま、これが本当のリアルサスペンスなのかもしれませんが、期待していたものとは異なりました。