「張り詰める不穏」ジュリアン KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
張り詰める不穏
当事者同士より弁護士のよく動く口にゲンナリする冒頭数分間、その間は母親と父親どちらが正しいかわからないけどすぐに判明する父親の異常性。
11歳の男の子とその家族をしっかり守る環境などなく、脆い強さに悲しくなる。
とにかくフラストレーションと恐怖感が止まらないあの男の言動で潰されそうになった。
わざとらしい澄まし顔に身の毛がよだつ。
嫌そうな顔で車に乗り込むジュリアンを抱きしめて連れ逃げたい。
外面の良い仕草と、苛立ち始めると止まらない攻撃的な態度が恐ろしい。
アントワーヌの両親の態度が甘くて嫌気がさす。
息子がおかしいことを知っていながらなぜ幼い孫息子をもっと守れないの。
荷物を放り出した父親の行動があんな最悪なことに。
裁判所の判決には疑問と怒りを感じるけど、条件を見る中立の立場ならではの決定だったのかも。
事情を知らない人間は恐ろしい。
楽しげなシーンも不穏が大きく、安心感はゼロだった。
パーティー会場でジュリアンの姿が見当たらなかった時の嫌なかんじ。
歌う際もどこか強張った表情の姉。
トイレでの一コマから連想される状況にまた頭が痛くなる。
あまりスポットの当たらない彼女だけど、それどうするの。これからのことを考えるとしんどい。
彼氏が大好きなのはわかるけど正直あまり頼りなさげに思える…何その三つ編み。
一番緊張感の高まるクライマックス、耳に焼き付くドアベルの音、けたたましい銃声と耳鳴り。
電話口の警察に縋るような気持ちになる。
猟銃を構えるアントワーヌの背後に拳銃が見えた時の大きな安心。
恐怖と焦燥とラストの安堵で感情が振り回され滝のように流れ、母子と共に泣いてしまった。怖くて涙が出るなんてなかなか久しぶりである。完全にホラー。
カメラワークが素晴らしい。
車の後部座席、トイレの足元、警察突入時、そしてラストカット。
そっと見守る隣人と観客の目線を重ねて、閉じるドアでエンドロール。
素晴らしい終わり方だと思う。
多分この親は世の中にたくさん存在していて、生活に紛れ込んでいる。
度々流れる痛ましいニュースにこの映画がリンクしているように思えた。
比べ物にならないけど、離婚した片方の親と出かけるくだりや支配的で態度の豹変する人間の描写は自分の子供の頃と少し重なって本当にキツかった。