「風刺に満ちた極上の仮面劇」天国でまた会おう しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
風刺に満ちた極上の仮面劇
原作未読の為、映画を見ての感想のみ。
従来神話やファンタジーが大好きで、比喩、隠喩、象徴、予定調和的構造は大好物。好みにどストライクだった。
風刺や皮肉に満ち溢れ、アルベールの回想という劇中劇の形で語られる物語は、寓話的戯曲的風合いだ。
顔半分を抉られたマスクの男、アーティスティックな数々の仮面、孤児の少女。どこか退廃的で芝居がかったファクターが、不安を煽り心をざわつかせる。
誇張されたキャラクター達が、時に滑稽に繰り広げる詐欺物語の裏には、深く苛烈な戦争への怒りと悲しみが、一貫して流れている。奇怪な仮面の向こうから覗くエドゥアールの眼差しが、痛烈に私達を糾弾し続ける。
銃を突き付けるアルベールに、「銃を下ろせ、戦争は終わったんだ」と言うプラデル中尉の台詞。違う、何も終わってなんかいないんだよ!
次々と切り替わる仮面が、言葉にできないエドゥアールの心情を表し、露になる目だけで、悲しみ、怒り、怨み、愛、千差万別な感情を表現する演技も素晴らしい。
プラデル中尉の、徹底したゲスっぷりも凄い。戦争、不正、不条理な社会への怒りが一層駆り立てられ、因果応報的末路の納得感が増す。
かつてのアルベールをなぞるように、土砂に埋もれていくプラデル。
鳥の面を被ったエドゥアールは、鳥のように両手を広げて宙に舞う。
劇中劇の幕は引かれ、映画冒頭に何気なく示されたパズルのピースが嵌まるように、アルベールの物語も一つの区切りを迎える。
全てが収まる所に収まった終演に、ため息を吐いて感嘆した。
エドゥアールの家族との関係や、プラデルの戦後の立場など、原作未読の私には駆け足で少し解り辛い所もあった。
フランス語が解れば、デッサンの書き文字など、もっと面白い要素があったかもなぁという部分も。
しかし大方大満足。
こういう出会いがあるから、ミニシアター系は侮れない!