「独裁が続いた韓国の歴史と、本作製作当時の「文化人ブラックリスト」が味わい深くする」1987、ある闘いの真実 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
独裁が続いた韓国の歴史と、本作製作当時の「文化人ブラックリスト」が味わい深くする
1987年、一人の大学生の死が人々の心に火をつけた--国民の自由が許されない軍事政権下で、警察に連行された大学生が命を落とした。政府が事実をもみ消すなか、新聞社は「拷問中に死亡した」とスクープする。我慢の限界に達した人々から民主化を求める声が沸き起こり、革命へと発展。絶対的権力を相手に、悪政国家を変えようとする民衆が立ち上がった......!(Amazon Primeより)。
韓国の歴史を把握していないと理解の難しいところがあったので、鑑賞後に調べてみたところ、ざっくりいうと、韓国はこの映画のタイトルにもなっている1987年までずっと独裁政権だったみたいです。
簡単に整理すると、1945年に日本の植民地支配が解かれて以降、朝鮮戦争を経て、初代大統領が憲法を勝手に変えて独裁(12年)→一瞬民主化→軍事クーデターで再び独裁が始まる(16年間)が、韓国のCIA的な機関のトップが大統領を暗殺→一瞬民主化→またもや軍事クーデターで独裁(8年間。この大統領の時に起こったのが政府がデモを繰り返す民間人を見せしめで虐殺した光州事件。本作でも少し登場します)、という具合のようです。基本的には、長きにわたって権力が暴力で国民を押さえつけてきた歴史が横糸です。
本作は更に、物語とは別の映画製作に関わる縦糸も絡んできます。上の暗殺された大統領の娘である朴槿恵(パク・クネ)が韓国初の女性大統領に就任したのが2013年。以降、2017年に前代未聞の政治スキャンダルで罷免されるまで強い権力を保持していたわけですが、彼女が行ったのが、映画好きなら知っている方も多い「文化人ブラックリスト」の作成です。
2016年に存在が発覚したこのリストは、自らの政権に対して批判的な言動や発信を行う文化人への資金を止め、彼らを政権監視下に置く目的で整備されたものです。そして、本作の製作が開始されたのが2015年(公開は2017年)。製作を指揮したチャン監督は、本作に登場する真実に目をつぶらない人びとと同様に、まさに命がけで権力に挑んだことになります。
さて、こういった韓国の歴史的な流れと、文化人弾圧の時系列を予備知識として持って鑑賞すると味わい深くなってくる本作ですが、命さえ掌握されてしまう環境下にあって、何のつながりもない個人が、身を賭して「真実」を隠蔽せずに紡いでいった物語と言えます。死因に疑いを持つ医師、火葬許可を出さなかった検事、報道統制に屈しなかった新聞記者、連絡係を買って出た看守。だれかひとり欠けても、民主化は成し遂げられなかったことでしょう。
圧巻は、キム・ユンソク演じるパク所長。ベースは権力を恣にする暴君ですが、脱北者である彼なりの正義も描かれているおり、常軌を逸する粛清の背景になっています。いまいち分からなかったのは、キム・ジョンナムの存在。主ストーリーに絡むようで絡まないのですが、結末からすると、それなりに重要なポジションだったみたいです。これも予備知識が必要なのかも。