若い女 : 映画評論・批評
2018年8月14日更新
2018年8月25日よりユーロスペースほかにてロードショー
人生七転び八起きの、最強チャーミングなヒロイン映画の誕生
10年付き合った恋人にぼろ雑巾のように捨てられ、31歳でとつぜん宿なし、無一文に。心の友は猫だけ、という絶体絶命の危機に陥るパリジェンヌ、ポーラ。ふつうならとんでもなく暗い映画になりそうだが、この映画は予想を裏切る快活さに満ちている。その理由は、どんなに苦境に陥っても決してへこたれない、否へこたれても起き上がり小法師のように立ち直りが早いポーラのバイタリティとユーモアに拠る。
友達の家に転がりこんでつい我が家のようにくつろいでしまったり、他人の家のパーティに忍び込んで羽目を外したりと、ちょっとルーズな性格の彼女に始めは当惑させられるものの、みるみる引き込まれて愛すべき存在に見えてくる。それは一見自己中でマイペースに見えてその実、繊細で傷つきやすく、決して他人のことが見えていないわけではない、というポーラの性格と、そんなバランスをチャーミングに表現してみせる女優、レティシア・ドッシュの魅力にある。そしてもちろん、彼女を抜擢したレオノール・セライユ監督の慧眼の賜物だ。これが長編1作目にあたるセライユ監督は、カンヌ映画祭でみごとカメラドールを受賞しているが、軽快なテンポの場面とじんわりとさせる瞬間を滑らかに織り入れた演出が冴えている。
本作のもうひとつの魅力。それはパリという街のリアルな息吹と人間模様だろう。ここではいいも悪いもひっくるめた、パリの素顔が描写されている。たとえば、ポーラが手に入れた住み込みのベビーシッターをする、いかにも勝ち組然としたブルジョワ妻が見せるポーラへの見下した態度。あるいは弱みにつけ込み、すかさず迫ってくる好色男。かと思えば、偶然の出会いが心を通わす友をもたらす、ちょっといい話。世の中甘くないけれど、でも悪いことばかりじゃない、という気まぐれなパリの憎めない魅力を体感させてくれる。
ところで、アラサーは「若い女」と言えるのか、と疑問を持った方へ。若さの秘訣はパワーにこそあるのだ、ということをこのヒロインが教えてくれます。
(佐藤久理子)