「ラザロの微笑みが、物語を深くする。」幸福なラザロ ガーコさんの映画レビュー(感想・評価)
ラザロの微笑みが、物語を深くする。
カンヌ映画祭で、脚本賞を獲得した期待作!
フライヤーにミステリーと書いてあるから、ミステリーなのだと思っていました。
でもふたを開けたら、童話のような寓話的ストーリー。
密かに教訓めいたヒントを物語のあちこちに隠しているような…。
でもヒントはあっても答えはないのが、この映画の難しいところ。
タイトルにもあるラザロとは、死んで4日たった死者をキリストが蘇らせたという奇跡の人物らしいです。
神の使いともいうべき、彼の存在が物語の鍵となっているようですね。
舞台は20世紀後半のイタリア。
とっくに小作人という制度がなくなっているはずの田舎町での話。
1人の伯爵富豪が、貧乏人を囲って無賃金で働かせていたという実話が映画化されました。
今の移民問題と、昔のイタリアの小作人問題をうまく絡ませて、貧困の現状を問うているかのような映画。
そう考えてしまうと難しい話になりそうですが、そこを難しくしないために考えたのがラザロという存在。
いつもニコニコ笑顔のラザロが、人々のそばにそっと寄り添い、その時代時代の問題を見守っていくという。
ラザロがいるから、途中笑いもあってストーリーに盛り上がりもあったといえる。
しかしながら、ラザロという存在は、一体何者なのか?
それが簡単に分からないから、この作品は深い…。
クリクリとした愛らしい目からは悪意は何も感じない…。
まるで、純真無垢な赤ん坊のような、天使のような不思議な存在。
彼の目を通してみる現代は一体幸福と言えるのか、不幸と言えるのか?
見方は人それぞれであるように、考え方も人それぞれ。
童話的可愛らしい物語に、鋭いメスを入れるかのようなハッとさせられる瞬間があるのが面白い…。
優しさと厳しさのアンバランスな関係。
それはまるで母性のような…。
監督が女性だったから、そういう感覚が所々に見られたのかもしれない。
まあ、結局のところ、時代は変わっても本質的な問題は何も変わっていないという、なかなか難しい世の中です…。