劇場公開日 2019年12月13日

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「より巧妙に多層的になっていくパナヒワールド」ある女優の不在 バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0より巧妙に多層的になっていくパナヒワールド

2020年1月26日
PCから投稿

イラン政府によって軟禁生活を強いられ、映画制作も禁じられながら、あの手この手の抜け穴を駆使して新作をコンスタントに完成させているパナヒ監督。この映画に関しては、もはや外出の不自由さもないようで、一時よりパナヒを取り巻く環境はラクになっている気がする(それも何時ひっくり返るかはわからないが)。

そしてパナヒ(に限らず大勢のイラン人監督も)がこれまでに取り組んできたイランにおける女性差別の問題が、本作では三世代の女性を通じて多層的に描かれているのだが、決してテーマを声高に主張したりはせず、隠喩や間接的な表現を多用し、時に観客を引っかき回しながら物語が進む。

気がつけば、なにか大切なことが描かれている気はするが、すっきりと理解した気持ちになったり、合点がいったりはしない。それもまたこの映画ではとても効果的に作用していて、行動原理のわかりにくい登場人物たちの群像から、本作が内包しているテーマの複雑さが感じ取れるのだ。

あと突如割礼のエピソードがブッ込まれてくるのも、性差に関する差別や偏見の犠牲者が、女性だけに限定されるものではないと伝えてくれている。あまりにもバカバカしくて、一瞬「これ何の映画だっけ?」と頭が混乱する酩酊感もいい。

村山章