「新たな魔女ここに誕生す」サスペリア 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
新たな魔女ここに誕生す
イタリアン・ホラーの名匠、ダリオ・アルジェントによる1977年の代表名作を、『君の名前で僕を呼んで』が絶賛されたルカ・グァダニーノがリメイク。
…と言うより、大胆に再構築/新解釈。
オリジナルは今尚、ファンに熱狂的に支持されている。
オリジナルは以前見、感想も書いたが、この名作ホラーについて詳しく語れるほどではない。
オリジナルとの比較や本作を一本の作品として、自分なりの感想を。
ヒロインが足を踏み入れる戦慄の世界。
基本は継承しつつ、幾つか設定変更。
まず、バレエの寄宿学校から舞踊団に。
故にバレエではなく、前衛ダンスに。
また、オリジナルの尺は100分だったのに対し、本作は何と2時間半!
相当ドラマ部分を広げた感あり。章仕立てや背景に当時のドイツの事件、出来事。
オリジナルは早々と怪奇の世界に誘われた印象だったが、本作は特に前半部分が本当に『サスペリア』?…と思うくらい静か。
端整な映像美ではあるが、あのアルジェント節とも言える“赤”を強調した鮮烈さはナシ。
グロさも控え目。
これらだけでも大分印象が変わったのが窺い知れる。
と言うか、少々退屈に感じてしまうだろう。前半は。
少しずつ、異様さが表れ始める。
ヒロインの激しいダンスに呼応するかのように、別場所で別のダンサーの身体が無惨に歪む。抑えていたショッキング描写が一気に解放!
披露される独創的な前衛ダンスはダークと美が融合。才気すら溢れる注目シーンの一つ。
オリジナルのゴブリンの音楽はインパクト充分だが、本作のトム・ヨークによる流麗な音楽も素晴らしい。
ちょいちょい“虫”や狂気やエロスを挟み、ミステリアスさや不穏なムードは増していき、そしてクライマックス!
血とグロの狂乱の宴。
“赤”のオマージュも。
ここはオリジナルファンも満足する事だろう。
ソフトSMの世界から魔女の巣窟に足を踏み入れたダコタ・ジョンソンの熱演。
オリジナルファンにはオリジナルのヒロイン、ジェシカ・ハーパーの出演は感激モノだが、
やはり異才を放つのは、ティルダ・スウィントン。
団のカリスマ振り付け師…だけではなく、失踪した少女を捜す老心理療法士(♂️)、クライマックスに登場するあのキャラも。
全くタイプの異なる1人3役!
もはや唯一無二の個性派女優!
まあとにかく、賛否分かれるだろう。実際、評価も賛否両論。支持側はオリジナルに負けないほど熱狂的に支持しているようだが、辛辣な酷評も多い。
あのおどろおどろしくも美しい、陶酔すらさせられる作風こそ、『サスペリア』。
それに対し、本作はアートな作り。
新たに構築/解釈しながら、分かり易くではなく、かえって謎めいて暗示めいて、難解にさえも…。
最初は正直ナンカチガウ感あったものの、おぞましく美しく、見終わってみればこれはこれで魅了。
さながら、“シン・サスペリア”。
“アルジェント魔女に”リスペクトしつつも、大胆で野心的に挑んだ“グァダニーノ魔女”、ここに誕生す。