「少女からオトナに変わるとき、少女が生み出した怪物の背景」メアリーの総て Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
少女からオトナに変わるとき、少女が生み出した怪物の背景
ちょうど200年前の1818年に出版された「フランケンシュタイン」の初版は、女性によって書かれたことをご存知だろうか。今でいうなら、iPS細胞で人造人間を創るような革新的な設定である。
本作は、ゴシック小説の名作「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリーの半生を描く。その科学的な描写からSF小説の元祖ともみなされる古典が、女性作家の手によって、どのような動機で書かれたかが、興味深くみられる。
しかも主人公のメアリーを演じるのは、エル・ファニング。美しさと演技力を兼ね備えた若干20歳のスターだ。3歳から子役で活躍し、姉のダコタ・ファニングとともに若手実力姉妹だ。最近は作家性の高い監督作品を選び、その真価を発揮している。彼女の選ぶ出演作品は観るに値する。
そもそも、"フランケンシュタイン"は怪物の名前ではない。怪物を生み出した、自然科学を学ぶ大学生の名前である。怪物は名無しで、創造主に愛されないこと悲しみ、愛する異性を求めるが叶わず、最後は消え去っていく。愛の物語だ。
そんなストーリーは、作家の娘だった少女メアリーの向こう見ずな行動から生まれてくる。父親の反対を押し切って、妻子ある詩人パーシー・シェリーと駆け落ちしている。生まれたばかりの乳児を2度失くしており(映画では1回)、愛と悲しみの経験が創作に影響している。
そして本作では、著名な「ディオダディ荘の怪奇談義」の経緯が描かれている。
メアリーと夫のパーシー、そして義妹クレアは、詩人バイロン卿の別荘"ディオダディ荘"に身を寄せていた。そこでヒマつぶしのアイデアとして、それぞれが創作した怪談噺を披露することになる。なんと「吸血鬼」、「フランケンシュタイン」といった古典的名作がそこで生まれたという奇跡的なエピソードである。
さらに「吸血鬼」を書いたのは、実はバイロン卿ではないという説や、なぜ「フランケンシュタイン」の初版が、メアリーの著者名を伏せて出版されたのかなど、知的な興味をそそる。
「フランケンシュタイン」を書いたメアリーは18歳。そして本作を演じたときのエルも同じ18歳だった。少女からオトナに変わるとき、少女が生み出した怪物の背景を、女性監督のハイファ・アル=マンスールが描く。
(2018/12/26/シネマカリテ/シネスコ/字幕:牧野琴子)