劇場公開日 2021年3月26日

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「元々胡散臭い業界の中の胡散臭い人達と真面目な人達」騙し絵の牙 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5元々胡散臭い業界の中の胡散臭い人達と真面目な人達

2021年4月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

現在社会の文化論として見ても、とても分かりやすく面白かったです。
原作は少し前に観た「罪の声」塩田武士で未読ですが、この人はかなりのストーリーテラーのようで、本作も予告編とは別の意味で嵌められました。
私が昔から出版社(だけではないが)に対してヘンだと感じていたことを面白可笑しくストーリーに絡ませて、今のメディア論に繋げて行き、最後は現在社会の“仕事のあり方”に対する問題に展開して行く流れは見事だと思いました。
更に普段からそういうことに無関心な人でも分かりやすい物語(それも娯楽作品として)が構築され、凄く上手ですね。

しかしネットって、まさに現在の黒船ほどの衝撃があり、社会を大きく変える出来事だった筈なのに、出現から既に何十年も経っているのにも関わらず、新聞・書籍・雑誌などの出版業界や、テレビ・音楽・映画業界などもこの映画と同じ問題を抱えているのに、明治維新の様な社会的大変革にならなかったことが、私としては残念だし不思議な気がします。
恐らく、この業界が政治などと密接な関係があり、そこで様々なパワーバランスをとる為の機能(歯車)の一部を担う業界であるからかも知れません。
それに、こういう業界は人間の“衣食住”など生死に直接的に関わらない職種だから、業界外の人間からするとジワジワとした少しの変化しか感じられないのだろうと思います。
本来ならもっともっと潰れる会社が出て、新しい形態のシステムが出来ても良い筈なのにと思いますが、現実社会では私が望むような大改革はまだまだ起きないようです。

上記した出版業界で私が昔からヘンだと思っていたことは、崇高な芸術的・哲学的なものや高度な学術的なものを扱っていると思えば、同じ会社内で超低俗(例えばゴシップ雑誌の様な)なものまで扱い、清濁関係なくどの様な社内理念があるのかも分かりませんが、まるでカオスのような業界で利用はしても、胡散臭く決して心から信じることの出来ない業界であり続けていました。
でも、本作の様に上位の部署の方が下劣で、下位の部署の方が真理っていうケースもあるのかも知れないというのが、本作の目の付け所の面白い部分でした。
本作のラストはこういう業界の一つの理想的なサンプル例でしたが、現実社会ではまだまだ遠い世界の様に感じられました。

追記.
しかし『ノマドランド』でも本作でも、“Amazon”が今の時代を現すシンボルなのですね(苦笑)
あとこのコロナ禍、大きなスクリーンに5人だけの鑑賞でしたが、この様な面白い作品でもこの程度の人数しか集まらないのに、繁華街なら無目的でも多くの若者が集まり感染者を増やしている、この皮肉。

シューテツ