「題材の難しさ」騙し絵の牙 Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
題材の難しさ
途中までドンドン盛り上がっていって面白いんだよね。色んな逆風の中で雑誌《TRINITY》をリニューアルして出して「やったぜ!」ってなるところはカタルシスあるの。
そこからドンデン、ドンデンってやってくんだけど、そこまで盛り上がらないのね。
「なんでかなあ」って思ったんだけど、雑誌・出版社・書店を盛り上げようってアイデアに無理があるんだと思ったの。
そもそも《TRINITY》は、今までは取り上げられなかった才能のある人を取り上げて、それでいこうよって話になってんのね。それで逆風きたときに「広告が全部なくなったとして、実売何部でいける?」って計算して15万部出して9割売ればいけますって。
なら、毎回15万部出して9割売れる雑誌作んなよ。でも無理だよね。才能のある人集めてきたら、その執筆料や取材費なんかかかりそうだし、そんなに才能のある人いないでしょ。
出版社はAmazonと提携して、雑誌をWeb化して生き残りはかるんだって、いや無理だろ。Webで雑誌読まないよ。
街の本屋は「この本屋でしか売ってない本」ってことで隠れた人気作家の新作を35,000円で売りますって、それ、何冊出せる?
「なんでこんなことになってしまうのか?」って考えたんだけど、これ、雑誌や書籍っていうメディアに才能ある人が集まってないからだなと思ったの。だから普通の人が「あっ!」と思って飛びつくような話にならないんじゃないかな。それで低迷してくんだろうな。
違う話になるんだけど、出版社の専務・常務はあんまりチャレンジしないんだよね。創業家はそこを飛び越えてやったっていう話で。
これ、創業者は、出版社がなかった状態を知ってるから、なにかあって潰れたとしても「あそこから、やり直せばいいや」って腹くくれると思うんだよね。でも専務・常務は、立派な出版社がある状態でそこに入社してるから、会社がなくなるなんてことは、想像すらできないんじゃないかな。
日本は色んなところで世襲をやっていて、「あそこに戻ればいいや」って思えるトップが減ってきてるから、思い切ったチャレンジがしづらくなってる気もしたよ。
エンドロール観てて「吉田大八、脚本に入ってるんだ」と思ったけど、監督だね。前半の観せ方のうまさとかさすがなんだけど、後半のモタツキはどうすることもできなかったな。原作というか、原作で選ばれた業界の限界だって気がしたよ。