「大泉洋を筆頭に役者全員が上手い。音楽の使い方も絶妙で、テンポ良く楽しめる吉田大八監督の新たな代表作。」騙し絵の牙 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)
大泉洋を筆頭に役者全員が上手い。音楽の使い方も絶妙で、テンポ良く楽しめる吉田大八監督の新たな代表作。
本作は、あえて一言で言うと「出版業界を舞台に繰り広げられる様々な生き残りバトル」でしょうか。
出版業界と一言で言っても、出版社、書店、(出版社と書店をつなぐ)取次店、そして、著者など本当に多くの役割があります。
本作の大泉洋が演じる主人公は、多くの出版社を渡り歩いてきた編集者です。
そのため、持ち球の多さや発想も面白く、それが見どころの一つとなっています。
また、タイトルに「騙し絵」とあるように、「表の顔」と「裏の顔」など、何が本当で何が嘘か、も興味深い内容となっていました。
とは言え、本作の最大の魅力は、人間模様の面白さだと思います。
大泉洋を筆頭に、松岡茉優など文字通り全員の演技が光っていて、それぞれのシーンがどれも興味深く面白いものとなっているのです。
これは、シーンに合わせた音楽の使い方もかなり上手く、さすが吉田大八監督といったところでした。
最後に、出版業界に長くいる立場からの感想です。
松岡茉優演じる編集者の実家は小さな書店ですが、こういう地域に大切な小規模な書店が全国で無くなってきています。「ネットで買えばいいのでは?」となりますが、高齢化社会ではなかなか厳しい面も大きいのです。どうにかして今の流れを止めないと、という社会問題は意外と大きいのです。
その一方で、世の中は出版業界にはそんなに興味がないのも現実だと思います。例えば、大手出版社の名前は知っていても、その会社の社長まで知っている人は(業界人でないと)いないですよね。
その意味で、本作の「テレビニュースの場面」については、少し違和感を持ちました。なぜなら、出版社の社長の人事や、新人作家のデビューなどはテレビで取り上げられるようなものではないからです。
本作を見た際には、この点が気になりましたが、映画はエンターテインメントでもあります。この見せ方が一番分かりやすく観客に情報を伝えられるベストな手法なのかもしれません。
そう考えると、これはそういう設定だと割り切りながら見るのが正解だと思います。
もし出版業界の人が見て気になったら、こういう「変換」をしてみることをお勧めします。