「”給料は払えないけど3年で監督にしてやる”」止められるか、俺たちを 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
”給料は払えないけど3年で監督にしてやる”
今年3月に公開となった「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の第1弾がキネカ大森でリバイバル上映となったので、早速観に行きました。「青春ジャック」については、個人的に今年観た新作の中でナンバー1の面白さだったので、その第1弾である本作をずっと観たかったのですが、ようやくお目に掛かることが出来て非常に満足しました。
若松孝二監督率いる若松プロダクションを舞台にした青春群像劇という点で共通している両作品ですが、井上淳一が監督を務め、かつ主役が若き日の井上本人だった「青春ジャック」は、井上同様に若松孝二にガッツリとスポットが当たっていました。一方本作は、白石和彌が監督で、主役は門脇麦演ずる吉積めぐみだったこともあり、完全に吉積めぐみの物語でした。井上にしても吉積にしても、二十歳前後で映画監督を目指して若松プロに飛び込んで、映画の世界にどっぷりと浸かる訳ですが、周囲と協力したり喧嘩したり、時には恋をしたりと、まさに青春そのもの。映画の道の追求だけでなく、若者が自分の目指すべき道を模索する様子が伝わって来るからこそ、映画業界の人間でない私のような観客の心も揺さぶる作品になっているのだと感じました。
「青春ジャック」から観たため、吉積めぐみが若くして亡くなってしまうことは端から分かっていました。そのため、序盤でウイスキーの小瓶を先輩から貰い、瓶に口を付けてそのままウイスキーをあおるめぐみの姿を観て、ああこの人はお酒で亡くなるんだと直感。案の定その後も酒を浴びるように飲むめぐみは、直感通りお酒と睡眠薬で亡くなってしまう。
そんな悲しいお話でもありながら、若松監督が今まさに戦火にあるパレスチナを訪問し、何とあの重信房子にインタビューする話が出て来たり、三島由紀夫の自衛隊市谷駐屯地への乱入事件のシーンが出て来たりと、当時の時代状況が生々しく再現されており、私自身がその現場にいたかのような錯覚すら覚えました。因みに市谷駐屯地で自衛官に檄を飛ばす三島を演じたのは白石監督本人ということで、この辺りはニヤリとさせられました(実際の三島はもっとスリムだけど)。
俳優陣も素晴らしく、主役のめぐみを演じた門脇麦は、悩みながらも全力で生きる姿に共感を覚えました。そして何と言っても若松監督を演じた井浦新は、まさにはまり役。「うちはな、給料は払えないけど3年で監督でしてやる」という名台詞も聞けて、ここでも満足でした。是非第3弾を創っていただき、そこでも若松節を披露して貰いたいと思った次第です。
そんな訳で、待望の作品を劇場で観られたこともあり、また内容的にも満足の行くものだった本作の評価は★4.5とします。